圧倒的進化「生成AI×対話AI」のチャットボットの最新動向、収益化・差別化を図るコツ
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半数の企業がAIをビジネスに活用、注目される「基盤モデル」とは
そして今、AIの世界にさらなる技術革新が起きている。その中心は、2022年末に登場したOpenAIのChatGPTに代表される生成AIだ。ChatGPTは、公開から2カ月でユーザー数1億人を突破し、世界を席巻。「第4次AIブーム」のトリガーになるとともに、ビジネスのさまざまな領域に飛躍的な進化をもたらすと期待されている。しかし、AI活用に伴うリスクも指摘されており、この先の対応に頭を抱える企業が多いのも事実だ。
現在のビジネスにおけるAI活用トレンドを見ると、AIアプリケーションの基盤となる大規模なAIモデル、いわゆる「基盤モデル」の市場が活性化している様子がうかがえる。企業はこの基盤を利用して独自のデータをAIに組み込むと、あらゆるビジネス領域に適用できるようになる。加えて公平性や説明性、正確性を担保できる「信頼性の高いAI基盤」を構築できる点も重要なポイントだ。
以降では、この基盤モデルを活用した生成AIと対話AIを組み合わせた最新の「チャットボット」に焦点を当てていく。どのようにAIを活用すれば、ビジネス変革を実現し、確実な収益につなげられるのだろうか。
「生成AI×対話AI」チャットボットの仕組みとその効果
これについて、日本IBM テクノロジー事業本部データ・AI・オートメーション事業部プロダクトマネージャーの小山 政宣氏は、 「まさに今、従来のチャットボットを生成AIや対話AIによって進化したチャットボットに入れ替える時期が来ています」と示唆する。
同社はこれまで「AI for Business」のスローガンを掲げ、企業向けのAIとデータのプラットフォームを提供してきた。2023年5月には基盤モデル、生成AIに向けた「IBM watsonx」を発表。「watsonx.ai」「watsonx.data」「watsonx.governance」の3つのコンポーネントからなるこれらのプラットフォームは、データ全体の信頼性を担保しながら、ユーザー独自のデータを使って柔軟なAIアプリケーション開発・活用を実現できるのが特徴だ。
そして、このIBM watsonxのプラットフォームとも連携するチャットボット(対話型AI)が「watsonx Assistant」だ。これを用いると、たとえば「顧客からの質問に、企業独自の文書の内容を参照しながら回答を自動生成する」といったタスクが容易に実現できる。watsonx Assistantが顧客と会話し、生成AIであるwatsonx.aiが、同社の文書活用機能である「Watson Discovery」で社内文書を検索しながら、回答をつくり出すという機能連携を自動的に行う。
従来のチャットボットの回答とwatsonxの回答はどのように異なるのだろうか。質問ごとの違いを見ていこう。
質問(1)「私は今年入社の新入社員です。有給は何日取得することができますか」
従来のチャットボットは、こうした質問に対する「答えに該当しそうな」文章を、あらかじめ入力されたデータから探し出して、そのまま長文で引用するだけだった。しかしwatsonxは、資料をもとに「10日間の有給休暇を取得できる」という簡潔で自然な文章を生成し、同時に根拠となる資料も提示した。
質問(2)「給与はどのように決まるのか教えてください」
「どのように」といった抽象的な質問は、従来のチャットボットが苦手な領域であり、ここでも「答えに該当しそうな」長文を引用するのみだった。しかしwatsonxは、抽象的な質問の意図を理解した上で、「(給与は)公正な基準にもとづいて決定される」と端的に回答し、ここでも参考となる資料を具体的に提示した。
質問(3)「給与を上げるためにはどうすれば良いか教えてください」
この質問は、既存の社内文書には回答が存在しない。あらかじめ入力されたデータを参照できないため、従来のチャットボットは「関連性の高そうな資料」をいくつも引用するが、的外れな回答になってしまった。しかしwatsonxは、根拠となる情報が社内文書にないことを断った上で、仕事の内容に応じた評価やスキルアップ、キャリアアップ、会社の財政状況などが、昇給に必要な要素であると端的に回答した。
こうした両者の違いを、実例をもとに示した上で、小山氏は次のように説明する。
「従来のチャットボットには、質問に対して関連のありそうな情報をいくつも羅列する傾向があります。しかし、watsonxを介したチャットボットは、具体的かつ簡潔な回答を提示できるため、お客さまの疑問や期待に寄り添った受け答えが可能です」(小山氏)
予算とユースケースに応じた4つの最適な導入パターン
では、こうしたAIを使ったチャットボットをどのように導入すれば良いのだろうか。小山氏によると、企業のユースケースと予算に応じて、次のように大きく4つの導入レベルがあるという。
社内にAIの分かる専門家がいないなど、初めての導入を不安に思う人は多いだろう。しかしそうした場合でも、「最初は簡単にセルフ導入し、ステップごとに切り分けて進めていくこともできます」と小山氏は語る。
その理由としてwatsonx Assistantは、ノーコード/ローコードを実現しており、ユーザー自身で簡単なチャットボットを構築することが可能だからだ。これは図の「1.簡単な質問・応答チャットボット」に相当する。
もう一歩踏み込んで「2.業務テンプレート活用で早期構築・クイックスタート」では、特定の業務に特化したテンプレートを活用し、早期導入を実現できる。より高度かつ広範囲な活用を目指す場合は、「3.ビジネス文書活用+生成AI組み込み」が適している。これは前述のようにWatson Discoveryでビジネス文書を活用しながら、チャットボットを構築するパターンだ。
さらに高度な「4.ワンランク上の顧客体験フェイスボット+生成AI」では、フェイスボットという、アバターを立てたユーザーインターフェースを使い、新たな顧客体験を提供できる。
「フェイスボットは、よりお客さまの記憶に残りやすいインターフェースです。チャットボットを単なる効率化やコスト削減のツールではなく、顧客体験向上のツールとして活用できます」(小山氏)
顧客満足度向上と収益化を叶えるチャットボット活用の事例
収益化のためには、まず顧客接点を起点とした好循環をつくることが必要だ。具体的には、チャットボットでインバウンドを効率化してコストを削減し、余剰リソースを生み出す。この余力をアウトバウンドビジネスに再投資していくサイクルの実現が、重要な成功ポイントになる。
たとえば、チャットボットの導入でデジタル化、データ化された情報を、顧客にひもづけて一元的に管理・分析する仕組みを構築してみよう。その結果を対面の営業やデジタルセールス、新たなサービス開発に役立てていく。またインバウンドの顧客満足度の向上は、リピート率やブランド力の向上にもつながる。
最後に小山氏は、チャットボット導入の成功事例を2つ紹介する。
1つ目は、国内の金融機関でAIオペレーターを導入した事例だ。従来型のIVR (自動音声応答)は、対応をそれ自身で完結させることができず、問い合わせの8~9割は、最終的に人間のオペレーターが対応していた。そこで、最新のチャットボットを使ったAIオペレーターを導入したところ、自然な対話で最適なチャネルへ顧客を誘導し、対応を完結できるようになった。オペレーターの負担やコストを削減し、顧客の待ち時間も大幅に短縮できたという。
2つ目は、国内の消費財メーカーで、コスト削減をアウトバウンドへの再投資につなげた事例だ。具体的には、チャットボットおよびボイスボットの導入でインバウンドのコール数を削減し、同時にオムニチャネルを一元的に管理するソリューションを導入した。結果生まれた余剰リソースをアウトバウンドコールへ再配分し、顧客満足度向上や売り上げ向上を実現した。
「対話AIおよび生成AIの導入は、自然な会話で対応を完結させる点に注目が集まりがちです。しかし、顧客接点における情報をより精緻にデジタル化・データ化することで、収益拡大に大きく貢献できる点こそがAIチャットボットの最大の価値であり、メリットとして認識していただきたいです」(小山氏)
生成AIというとつい単独ツールを連想しがちだ。しかしビジネス活用においては、解説したような基盤モデルを使ってチャットボットをはじめ、さまざまなAIアプリケーションを開発し活用することで、顧客満足やビジネス創出、新たな収益チャネルの拡大などにつなげていける。企業にとっても、自社独自の活用法で差別化・収益化を図り、競争力とすることが、AI時代の新たな重要課題といえるだろう。