- 2024/01/27 掲載
アングル:中国で規制擦り抜け暗号資産投資が拡大、株や不動産から逃避
[上海/香港 25日 ロイター] - 上海在住で金融機関の幹部として働いているディラン・ルンさんは2023年初め、中国経済と中国株がこれから落ち込んでいくとの実感を持ち、手持ち資金の一部を暗号資産につぎ込み始めた。
中国では21年以降、暗号資産の取引および採掘が禁止されている。だがルンさんは地方の小規模な商業銀行が発行したカードを利用し、いわゆる「グレーマーケット」のディーラーを通じて暗号資産を購入。また監視の目を逃れるため、1回当たりの購入額を5万元(6978ドル、約103万円)までに制限した。
「ビットコインは金のような安全資産だ」と語るルンさんは現在、運用資金の半分に当たる約100万元相当の暗号資産を保有し、配分比率は中国株の40%を上回っている。
ルンさんが投資した暗号資産の価値は45%上昇した半面、中国株は3年にわたって下落が続く。
ルンさんのように規制を擦り抜ける巧妙な方法を駆使し、ビットコインをはじめとする暗号資産を手に入れようとする中国の投資家は増えるばかりだ。背景には、国内で低迷したままの株式や不動産よりも暗号資産は安全な投資先だとの考えがある。
彼らが取引するのがグレーマーケット。中国本土の暗号資産取引は禁止され、海外に資金を移すのも厳しく制限されているものの、人々はOKXやバイナンスといった交換所経由だったり、相対取引を介したりして、引き続き暗号資産の売買はできる。
本土の投資家は、海外の銀行口座を開設することによる暗号資産購入も可能だ。
中国市民は23年に香港でのデジタル資産取引が解禁されたことを受け、年間5万ドルの外貨購入枠を利用して資金を香港の暗号資産口座に移動させつつある。本来、この購入枠は海外旅行や留学のためにしか使うことができないと定められている。
香港のある暗号資産交換所幹部は、中国経済の悪化で「本土(資産)への投資はリスクが高く、不透明で期待外れになってしまったので、人々は海外に資産を振り向けようとしている」と説明した。
この幹部によると、ビットコインや他の暗号資産がそうした投資家を引き付けていて「ほぼ毎日、本土投資家が香港市場にやってくる光景を目にしている」という。
<中国政府の本音はどこに>
ロイターがオンラインの暗号資産交換所を調べたり、個人投資家に取材したりした結果、やはり中国本土でビットコインに投資するのはそれほど難しくはないと判明した。
OKXやバイナンスなどの交換所は依然として中国投資家向けサービスを提供しているし、彼らにアント・グループのアリペイやテンセントのウィーチャットといったフィンテック・プラットフォームを使って人民元をステーブルコインに転換し、暗号資産を取引できると案内している。
暗号資産データ・プラットフォームのチェーンアナリシスによると、中国における暗号資産取引が拡大し、相対取引規模の世界ランキングは22年の144位から23年に13位まで躍進した。中国では公式には禁止されているにもかかわらず、22年7月から23年6月までの認証前ベースの取引記録で見た暗号資産市場規模は推定864億ドルと、香港の640億ドルをしのぐ。個人投資家による1万ドルから100万ドルまでの大口取引が全体に占める比率は、世界平均の3.6%の2倍近くに達する。
同社はリポートで、中国の暗号資産取引の大半は、非公式なグレーマーケットである相対市場で発生しているとの見解を示した。
一方香港の繁華街などには、実店舗式の暗号資産交換所が随所に見られ、こうした交換所への規制は緩い。
ある人気の交換所は、利用客が最低500香港ドル(64米ドル)から暗号資産の購入が可能で、身元を確認するための書類提出は必要とされない。
中国では暗号資産の「地下市場」もにぎわっている。
個人のデジタル資産購入を手助けするディーラーの1人は、1日当たりの取引規模は数百万元か、場合によっては数千万元単位になると明かした。
株式アナリストのチャーリー・ウォンさん(35)は、香港で公式に認められた交換所を経由してビットコインを買った。「伝統的な資産にチャンスを見出すのは困難だ。中国の株や他の資産は不振で、経済は重大な移行期に差し掛かっている」とその理由を説明する。
さらにウォンさんは、中国当局はビットコインがいかに大きな影響をもたらし、潜在的な力を秘めているのかよく分かっていて、だからこそ香港での取引を承認し、ニューヨークやシンガポールなどの金融センターで続く暗号資産ブームとのつながりを保とうとしている、とみている。
チェーンアナリシスも、足元の事態が「中国政府はもしかすると暗号資産に対して寛容になっていて、そうした方向への取り組みを進めるために香港でテストをしているのではないかとの憶測を生んでいる」と指摘した。
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