- 2024/01/19 掲載
アングル:中国市民の実感は「景気後退」、連鎖する不動産・消費・雇用の縮小
[上海 18日 ロイター] - 中国の公務員試験の前夜、メロディ・チャンさん(24)は心配そうに寮の廊下を行ったり来たりしながら、解答の練習をしていた。自分がずっと泣いていたことに気付いたのは、部屋に戻ってからだ。
メディア業界で100回以上も就職を断られたチャンさんの望みは、国家プロパガンダの仕事に就くことだった。若者の失業危機が叫ばれる中、公務員の求人3万9600件に過去最高の260万人が押し寄せ、結局チャンさんは落とされた。
難関校の中国人民大学を卒業したチャンさん。「私たちは間違った時代に生まれた。不景気で、夢だの野心だのとは言っていられない。終わりのない就職活動は拷問だ」と嘆く。
中国では経済への信頼感が揺らぎ、消費者の支出や企業の雇用、投資を圧迫している。このままでは長期的な潜在成長力が損なわれる悪循環に陥りかねない。
昨年の中国の経済成長率は5.2%で、ほとんどの主要国を上回った。しかし、職に就けない新卒者、アパートの価格が下がって貧しくなったと感じる不動産オーナー、前年より収入が減った労働者にとっての実感はマイナス成長だ。
中欧国際工商学院のジュー・ティアン経済学教授は、2四半期連続のマイナス成長という教科書的なリセッション(景気後退)の定義は、国内総生産(GDP)に占める投資比率が約40%と米国の2倍に達する成長途上の国、中国には当てはまらないはずだと語る。
「中国はリセッションの最中だ。10人に話を聞けば、7人は悪い年だったと言うだろう」とティアン氏。「政府はこんなことを看過できないはずだ。永遠には続けられない」と言い、自信喪失の「悪循環」を断ち切るために、政府はもっと景気刺激策を講じるべきだと語った。
<消えゆく向上心>
中国では16歳から24歳までの約1億人のうち、昨年6月時点で4人に1人以上が失業していた。17日に公表された12月のデータでは、若年失業率(大学生を除く)は14.9%だ。
調査によると、中国のZ世代は全ての年齢層の中で最も悲観的だ。
内需不振に対応して企業はコストを削減しているため、就職できても収入は期待より低い。人材紹介会社、智聯招聘によると、中国の38の大都市で昨年第4・四半期に雇用者が提示した平均給与は、前年同期比で1.3%減少した。
1980年代以降、ドルベースで約60倍に拡大した中国経済にとって、これは歴史的なムードの変化だ。経済成長は主に製造業とインフラへの巨額投資を通じて達成したものだが、このモデルは約10年前から成長よりも債務を生み出すようになった。
その一方で、中国は製造、建設業ではなくサービス業の高技能職のために学生を教育した。だが、家計消費の低迷と、金融、ハイテク、教育産業に対する規制強化により、そうした学生のチャンスは減っている。
ジャニス・チャンさん(34)は2022年遅くまでハイテク業界で働いていたが、家族の緊急事態に対処するために退職した。自分の経験と米国での学歴を考えれば、新しい職を見つけるのは簡単だと高をくくっていた。
ところが、チャンさんが見つけたのは15時間シフトのソーシャルメディア・マーケティングの仕事だけ。だから間もなく退職した。
経済の現状を考えると、自分の運命をコントロールできない「浜辺の砂粒」のような気持ちになる、と彼女は言う。
「中国では『向上心』という言葉が全員を駆り立ててきた。明日は最良の時になると信じていたからだ。私が今、人生で克服しようとしているのは、言ってみれば明日がもたらす失望を癒すことだ」と語った。
<不動産危機>
上海で高級コーヒーショップを経営するビンセント・リーさんは、「ワンツーパンチ」を食らって中間層からたたき出されたと語る。
消費者は節約のために安いコーヒーを好むようになった。そして、彼が17年に観光地の海南島に400万元(55万8612ドル)で購入したマンション2軒は、かれこれ3年も賃貸と購入の問い合わせがない。「不動産市場は飽和状態だ」とため息をつく。
中国人民銀行(中央銀行)の最新データによると、19年時点で都市部の約3億世帯の96%が、少なくともアパートを1軒所有していた。中国の家計貯蓄の約70%は不動産に投資されている。
21年に不動産市場の低迷が始まって以来、一部の都市ではマンション価格が3分の1に下がり、オーナーは支出を切り詰めていると不動産業者は言う。
最盛期には経済活動の約4分の1を占めていた不動産セクターは今や、「中所得国のわな」を逃れようとする中国にとって大きな脅威とみなされるようになった。
ジョンズ・ホプキンス大学のアルフレッド・チャンドラー政治経済学講座のユエン・ユエン・アン氏は「大きなリスクは、旧来の成長源の減少による影響が大きすぎて抑えきれなくなり、新たな成長源を阻害することだ。そうなれば、中国は移行期から抜け出せなくなる可能性がある」と言う。
中国市民の生活に影響を与えているのは、国内政策だけではない。台湾、ウクライナ、南シナ海をめぐる西側諸国との外交的緊張により、中国の外国直接投資は初めて流出超過となった。
デビッド・フィンチャーさんが営む上海のコンサルタント会社は、米国の制裁により先端半導体のビジネスを行えなくなり、重要な収入源が閉ざされた。
外交的緊張の高まりや、政府による新たな規制によって事業が立ち行かなくなるのを恐れ、海外移転を検討しているフィンチャーさん。
「まるで鍋の中のロブスターのようでお湯の温度が上がる中、じっと座っているような感じ。中国政府の動向を心配する気持ちは皆と同じだ」と語った。
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