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- 2024/10/18 掲載
「解雇規制緩和」の恐怖、シニアに訪れるかもしれない厳しい将来とは
石破内閣は本当に「解雇規制緩和」しないのか?
また、最初の投票でトップに立ち、石破氏と決選投票を戦った高市 早苗氏は、解雇規制緩和に対して明確に反対の姿勢をとっていた。「海外と比べて日本の解雇規制がきついわけではない」といった論調だ。
一方、解雇規制緩和推進の立場をとったのが河野 太郎氏だ。河野氏は解雇について金銭保証ルールを設けることに言及しつつ、「雇用の流動性を高め、正規雇用と非正規雇用の差を縮めるために、解雇規制緩和が必要」との意見を述べていた。
総裁選上位の2名が慎重あるいは反対の立場で、推進派の2名が失速したことも、解雇規制緩和のハードルの高さを物語っているのかもしれない。
進次郎氏も、リスキリングや再就職支援を企業が整理解雇する場合に求められる「解雇回避努力」に加えるといった改革内容を訴えた。当初は、解雇規制緩和を労働市場改革の本丸に据えて来年の法改正の提案まで述べたが、その後のテレビ番組出演ではトーンダウンして「緩和でも自由化でもない」と述べた。
ただ、解雇規制緩和に慎重な姿勢の石破氏が総裁となったのだから、解雇規制緩和は起こらないと思うのは早計だ。
というのも、総裁選立候補時と選出後とで石破氏のさまざまな発言が大きく変わっていることがある。それに加えて、解雇規制緩和は、進次郎氏が発言する前からも推進したい政治家や識者がいるためだ。
解雇規制そのものに踏み込んだものではないにせよ、「労働移動」の円滑化については、岸田前総理も度々推進について発言し、2023年も2024年も骨太方針の中に労働移動が登場する。岸田前総理の時代は、会社員が自ら退職しやすくするための失業給付金の要件緩和や、転職・再就職のためのリスキリングなどにとどまっていたが、方向性は共通だ。
そこまで厳しくない?日本の解雇規制
そもそも日本の解雇規制とはどのようなもので、なぜ規制緩和の声が上がるか。日本では企業による従業員の解雇について、労働基準法と労働契約法による規制がある。
労働基準法では、労災の療養期間や女性の産前産後などの解雇を禁止している。また、災害時や懲戒処分、2カ月以内の有期雇用などの場合を除き、解雇の30日前までに予告する「解雇予告」か、「解雇予告手当」と呼ばれる1カ月分以上の賃金を支払うか、いずれかが必要と定めている。
労働契約法では、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」場合以外は、解雇が無効だとしている。より具体的な目安としては、1979年の東京高裁判決で示された「整理解雇の4要件」が使われている。
- 人員整理の必要性
- 解雇回避努力義務の履行
- 被解雇者選定の合理性
- 手続の妥当性
つまり、解雇しなければ経営が立ち行かない状態で、解雇以外の方法も探った上で、それでも必要であれば整理解雇ができる。さらにその対象は、合理的な理由や基準で選ぶ必要があって、十分な説明や協議が必要になるのだ。
この4要件も法規制ではなく判例のため、明確な線引きではない。4要件すべてを厳しく守らなければ絶対に解雇が認められないわけではない。あくまでも裁判所の判断の目安にすぎない。
こうした日本の解雇規制は、「諸外国よりも厳しい」という意見は多いが、総裁選で高市氏が述べたように、実際は必ずしもそうではない。たしかに解雇規制が最も緩く、すぐさま従業員を解雇できる米国と比べれば規制が厳しいが、日本よりも解雇規制が厳しい国は多い。
経済協力開発機構(OECD)が2019年に各国の労働者保護の程度を数値化し、ランキングにした資料によると、日本は37カ国中、緩い順で11位、つまり解雇規制が緩い国なのだ。ドイツ、韓国、フランスなどはさらに規制が厳しい。当該資料は、消費者庁の「OECD加盟国における正規労働者の解雇規制の厳格性」から見ることができる。
とはいえ、終身雇用や年功序列といった日本型の雇用が徐々に崩壊していく過程で、政府を含め、もっと労働移動を円滑にして成長分野に労働力を集めなければ、日本は国際的な競争力を得られないという考え方も強まっている。
そうした議論の中で、よく登場するのが、人材派遣の規制緩和と非正規雇用増加である。 【次ページ】人材派遣の規制緩和と非正規雇用増加
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