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- 2015/01/13 掲載
Pepper開発者が語る、グローバルで成功する秘訣は「日本人としての強みを活かすこと」
伊藤 健二教授×源田 泰之氏×林 要氏
世界No.1企業になるために、世界を変えるグローバル人材の育成を
ソフトバンクの経営理念は「情報革命で人々を幸せにする」というものだ。2年前に発表された「新30年ビジョン」で、孫氏は「世界の人々から最も必要とされる企業になりたい」と宣言した。これを全社員が共有し、時価総額で200兆円以上の企業になることを目指している。
同社は創業33年で営業利益が1兆円を突破した。国内の1兆円企業はNTTとトヨタしかないが、同社は最速で1兆円企業になった。しかし、これに甘んじることなく、さらに先を見つめている。300年以上の成長を続ける企業になるという目標を掲げ、戦略的シナジーとして5000社のグループ企業を作ろうとしている。
同社はシリコンバレーにも新拠点を設立した。その目的は、シリコンバレーの先端技術を取り入れ、アジアに広げていきたいからだという。米国Sprintの買収や、中国では先ごろIPOを果たしたアリババの3割に当たる株を持つ。また今後確実に市場が伸びていくであろうインドにも目を向け、配車プラットフォームサービスなども展開。
「我々は、これまでの成功体験を世界に広げていこうと考えています。米国に注力しているのも、まさにそのためです」(源田氏)
同社の目は完全に世界を向いている。
Pepper開発者が語る、グローバル人材の在り方と心得とは?
続いてソフトバンクでのグローバル人材の実例として登場したのが、ソフトバンク ロボティクスの林 要氏だ。同氏は、世界初の感情認識パーソナルロボット「Pepper」を、ソフトバンクグループの一員である仏アルデバラン社と開発したリーダーとして知られている。Pepperは、人工知能を利用し、人とコミュニケーションを行うためにつくられたロボットだ。人間は少ない情報から学習し次を予測できる。一方、コンピュータも技術が進歩し、多くの情報を基にすれば学習し次を予測できるようになった。人工知能が少しずつ人を理解し、相手の感情を読み取れる時代になってきたのだ。喜怒哀楽は、顔から読み取れるだけでなく、声からも分かる。新しく開発されたPepperならば、表情だけでなく、声のトーンからも感情を判断できるのだ。
「20万円という安い価格で、人の感情を理解し、人とコミュニケーションするためのクラウドAIを搭載したロボットを作りました。今年6月に発表し、現在はソフトバンクモバイルの80店舗に設置しています。来年までに全国のほとんどの店舗にPepperが置かれる予定です。これまでのロボットは数が絶対的に少なかったため、人とロボットが会話する機会も限定的でした。低価格化により大規模展開が可能になったことで、一般家庭に受け入れていただけますし、ロボットが人の行動を学習する機会が増えます。それによりクラウドAIも賢くなっていきます」(林氏)
そんなPepperの開発に尽力してきた林氏は、前職でもグローバルで活躍してきたという。林氏がグローバルに携わる契機となったのは、たまたま海外にやりたい仕事があったからだ。実は同氏は、前職では誰もが知る大手の自動車会社に在籍し、空力エンジニアとして活躍していた。英語は苦手だったものの、空力開発の経験は十分にあったため、F1レーシングカーの空力エンジニアとして、3年ほどドイツで働いていた経験を持っている。
「当初、私には英語でのコミュニケーション能力がほとんどありませんでした。TOIECでも250点ぐらい。その後、勉強して500点ぐらいになりましたが、それでは業務上の議論には役に立ちません。あるとき、自分が絶対に正しいと思っていた事案で、相手に言い負かされてしまいました。そのとき本当に悔しくて、不意にポロリと涙が出てきたのです。その悔しい思いが、語学習得を加速させた気がします」(林氏)
子供は何もしなくても自然に母国語を覚えてしまう。そこで英語が母国語の子供のように、林氏も英語しか聞かない、話さない環境に身をおいたそうだ。
「現地では意識的に日本人出向者とつるまないよう努め、食事をするときも徹底的に英語だけの環境に浸りました。そうすると段々と耳が慣れ、英語が自然に喋れるようなりました」(林氏)
グローバルに共同で仕事をする際のポイントは怒れること
「外国人からみると、日本人はすごく変わっているイメージがあるようです。真面目であり、さらにグループできっちり仕事ができます。仕事の内容にバラツキもありません。その場の空気も読めます。ゆえに日本では相手に“分かってもらって当然”という前提があり、細かいことを説明しなくてもスムーズに仕事が流れていきます。
しかし海外では、まったく事情が異なります。海外で仕事をすると侃侃諤諤の議論が始まります。日本人は良いところもありますが、このような議論に際してコミュニケーションがうまく取れないことが多いのです」(林氏)
グローバルで業務する際には、自分の伝えたいことをしっかり説明できることが重要だと、林氏は続ける。
「国内で仕事ができる人は、異文化との相互理解の壁を乗り越えれば海外でも十分に通用すると思います。働き出して10年ぐらいすると、自分の型・パターンのようなものができてしまいます。その間に日本人としか仕事をしないと、グローバル人材としてのスキルを身につけるのが大変になる。なぜなら、相互理解が期待できない異文化の人と向き合っていくための仕事のパターンを学ぶ機会がないままに、自分の仕事のパターンが出来上がってしまうからです」(林氏)
そのうえで林氏は、多様な人たちと共同で仕事をするポイントについて次のように強調する。
「必要な時には物怖じせずに怒れること。エキセントリックに聞こえるかも知れませんが、大事なのは言葉が下手でも必要な時に必要な自己主張ができることです。外国の方々は、自信満々に意見を述べます。そのとき相手の態度に惑わされず、自分の意見をしっかり相手に伝えられることがポイントです。そうすると議論の幅が広がっていきます。グローバルプロジェクトに不慣れな日本の方の中には、そういう方向に議論を広げる努力をする粘り強さが足りない場合もありそうです」(林氏)
日本人がグローバルで成功するために必要なこと
では、これから日本人がグローバルで成功するためには、一体どうしたらよいのだろう? 林氏は「個人として成功するには、日本人としての強みを活かすことが大切です。実際に日本人というだけで、かなり特殊な文化的背景を持ったポジションにいますから、その空気を読む能力を活かした議論をするなど、協調性を活かした粘り強い仕事をしていけばよいと思います」と説明する。つまり、これは無理やり外国人のように振る舞わなくてもよいということを意味している。
「議論していると、ラテン系の人はどんどん話が発散してしまう場合が多々あります。そこで話を戻せる人が多いのは、日本人の特徴の1つかもしれません。また中国の人々は、8割がたまで驚くほど素早く精度良くやってくれます。しかし最後の詰めが甘い時もあり、そういう時に残りをきっちり詰められる人が多いのは日本人の長所かもしれません」(林氏)
最後に林氏は、グローバルで活躍するために、学生に対して次のようにアドバイスをした。
「“習うより、慣れろ”という言葉があります。日本人の特徴が良いとか悪いという問題ではなく、単に違う人同士を比べるとき、尺度によってある面が良く見えたり悪く見えたりするだけの話です。差異があるのは、ごく当たり前のことです。むしろ日本人にとって大切なことは、相手の主張の前で物怖じしないこと。自信をもって、理解してもらうまで粘り強く相手に伝えることだと思います」(林氏)
チャンスさえあれば、誰でも世界を舞台に活躍できる時代だ。だが、その前に人は現在の環境を変えたくないというバイアスが働いてしまうのも事実だ。
「ちょっと難しいと感じても、実際に現場に放り込まれると何とか適応してしまうものです。言葉の壁も同様です。まずは、そういうところに身を置いてしまうことが重要です。ただし遊び半分ではダメ。かつて私はドイツに行って悔し涙を流しました。そのぐらい強い刺激があった時に逃げなければ、自然と適応できるのだと思います。真剣勝負の場に身を置くと、人は自然と成長するようにできているのかもしれません」(林氏)
こうした話を受け、伊藤教授は「Pepperに係わる人など、グローバルビジネスの人の能力としては、OECD調査の結果で日本が世界一になったPIAAC(国際成人力調査、ピアック)も参考に、HR(人事)ビッグデータも活用し、ソフトバンクとしてのグローバル人材要件の検討をはじめていくきっかけになればと思っていますが、いかがですか?」と今後に向けての展開を提案。源田氏は「一緒にグローバル人材要件の研究を進めていければいいですね」と応えていた。
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