- 2009/10/07 掲載
【鈴木義幸氏インタビュー】なぜ人は職場で心を病んでしまうのか
――コーチというのは、他の企業に出向いて、オフィスのコミュニケーションを改善する職業ですよね。ご著書の『職場スイッチ』も、オフィスにおける雰囲気の問題を取り上げられています。職場におけるコミュニケーションとは、どのように重要なのでしょうか?
鈴木氏■私たちはコミュニケーション・コストということを考えるんです。たとえば、子どもに勉強させるために、1時間説教をしたとする。だけど、子どもが3分しか勉強しなかった。これは、とてもコミュニケーション・コストが高い状態です。
同じように、上司が部下に「これをやってくれ」という仕事の指示をしたとしても、相手がそれをやる必然性を汲み取れなければ、きちんとした仕事はしてくれない。こうしたコミュニケーションの問題は、実はしっかり相手の背景情報をつかむことで解決できるものでもあるんですね。でも、そこが抜け落ちてしまっているから問題が起こる。
『職場スイッチ ひとりでもできる 会社の空気の入れ換え方』 |
鈴木氏■私はITの導入自体はまったく否定していません。だけど、ITが導入されたことで、効率がアップされた一方で、コミュニケーション・コストが高くなっている部分があるんじゃないかという指摘をしました。
――電子メールや情報共有のためのグループウェアなどが企業に導入されたのは、コミュニケーションの効率を上げるためです。しかし、これらのツールは、逆にコミュニケーション・コストを上げていると?
鈴木氏■たとえば新人が電話を取って、顧客とやりとりしている様子というのは、自然に周りからも見えていました。そこで対応が悪くても、そばにいる先輩が「その電話の対応は、もっとこうした方がいいよ」といった具合にアドバイスが発生したんです。
それが、一人に一台PCが与えられて、顧客とのやりとりがメールで行われるようになると、そういった機会は減ります。かつては自然に起きていたOJT(On-the-Job Training)が、起こらなくなったんです。同じように、その人が今何に躓いていて、何に悩んでいるのかという情報は、わざわざ面談をしないと伝わってこなくなっています。
かつては仕事って、なんとなく周りを見て覚えるものだったんです。でも、いまははっきりと育成するぞと決めて、人を育てる、部下を育てるということを、意図を持って取り組まなければやれなくなってます。パーティションを超えてコミュニケーションを取る、部内に限ってメールを禁止してみる、そういった提案を本書の中ではしています。
――オフィスにおけるコミュニケーション不足とは、どういう形の弊害として表れるんでしょう。
鈴木氏■私たちがよく相談を受けるのは、若手の離職率の高さや、次世代のリーダーが育たないというものですね。それと、メンタルな理由で仕事を休職する人が増えているといった相談がとても多いです。
――そういったメンタルな理由による休職者は、昔から多かったわけではなく、ここ数年レベルで起こっている問題なんですか。
鈴木氏■数値的に測っているわけではありませんが、私たちはいろいろな企業の人事の方とのおつきあいをする立場にあるので、直接そういった問題について耳にする機会が多いんです。そこを通して聞く事例としては、ここ数年でうなぎ登りに増えているといって間違いないです。私は1999年から今の仕事を始めたんですが、2000年代半ば以降に特に顕著になっていますね。
それがどこから生まれてきているかというと、主に職場でのコミュニケーションが少ないという問題からなんです。具体的には、仕事の悩みを相談できる同僚がいない、上司が一方的に仕事を押しつける、そういった環境に耐えきれなくなっている人が増えている。
その仕組みをもっと詳しくいうと、人にはセルフイメージというものがあって、自分はこう見られたいというイメージを自分で描くんです。それとは違う受け取られ方をすることで、ストレスが発生する。つまり、自分は仕事ができる人間なのに、できない人として見られているといったような場合です。
いまどきの企業にはそのギャップを明らかにする仕組みがたくさんあるんです。その最たるものが成果主義ですよね。能力が数値化される。もちろん、リストラもそうです。本来なら、サポートのシステムが用意されていれば、そのギャップから逃れることができます。
たとえば、上司からは認められてなくても、同期の人間ならわかってくれている。そういった状況があればいいんですけど、社内のコミュニケーションが減っていれば、そういうサポートシステムも働かないわけです。そうすると人は孤立してしまい、メンタルが持ちこたえられなくなるんです。
――失われた職場のコミュニケーションを復活させることで、そういった問題を解決するのがコーチングのお仕事というわけですね。
――具体的なお仕事の中身についておうかがいしたいのですが、社内のコミュニケーションを変えるために、どのようなアドバイスをしたりするのでしょう。
鈴木氏■人は他人のアドバイスなんて受け入れないものなんですよ。だから、私たちはナレッジは伝えますけど、アドバイスみたいな事はしないんです。
――でも、その職場に出向いていって、コミュニケーションのダメな部分を見つけて、改善するのがお仕事なわけですよね。
鈴木氏■なので、まずはトップが動くように、自分が部下にどう思われているのかというのを知ってもらう必要があります。部署全体にウェブ経由でアンケートを採ったり、直接インタビューを集めたりして、現場の部下たちはあなたのことをこう思ってますよという、詳細なフィードバックをします。
――それは、きついですね。
鈴木氏■自分がどう思われているのかを知って、三日三晩寝られなかったという人もいますね。人は、上に行けば行くほど、批判されたくなくなるものなんです。でも、そこまでやって、初めて人は改善しようと思うんです。
鈴木義幸氏 |
鈴木氏■これは実例なんですけど、暗い雰囲気の職場で、成績も上がってない営業部があったんです。自分たちはそこにいって、部署の中で1番若い人たちを集めてプロジェクトチームを作ってもらいました。彼らにはどうしろということは言わずに、ナレッジだけを伝えて、あとはどうやったら職場が盛り上がるかを、自分たちで考えてもらいました。
すると彼らは、職場を明るくするために、必ず挨拶をするというコミュニケーション・ルールを作りました。そして、それを実行するためのアイデアとして、出入り口のところに、内側を向いた足跡を描いたんですね。出かける人はそれを見てルールを思い出して、必ず挨拶をするようになった。
こうしたコミュニケーションの改善を行ったことで、以前は全営業部中二十何位という成績だったその部は、数カ月でほとんどの指標で1位になったんです。部内の明るさと営業成績って、不思議なほどに結びついてくるんですよ。
――コーチは何かをアドバイスをするんじゃなくて、あくまで、自発的にやってもらって、それをサポートするということを行なうんですね。
――コーチとして企業を訪ねて、まず見る場所ってどこでしょう。
鈴木氏■その会社のダメな部分がもっともよく出るのって会議なんですよ。会議の中身には、その会社の日頃のコミュニケーションがすべて表れます。重くて沈滞している会議をやっている会社で、日頃のコミュニケーションがうまくいっているというケースは皆無です。なので、コーチとして仕事を受けると、まず会議を見せてほしいとお願いするんです。
――どういう会議がダメなんでしょうか?
鈴木氏■議長が一方的にしゃべりっぱなし。発信者と受信者が別れていて、ディスカッションがない。そういう会議はだめですね。そんな会議をやる議長がディスカッションをしても、質問が「なぜ?」と「クローズドクエスチョン」、つまり「はい」か「いいえ」でしか答えられないというものになりがちです。「なぜ、こういう何だ」という問いかけから始まって、相手が「○○をやったんですけど」と答えると、「じゃあ、△△はやらなかったのか」というような、非を責めるやりとりにしかならない。これでは、否定が前提の会議になってしまうので建設的な議論にはならないんです。
――では、どうすればいい会議になるんでしょう?
鈴木氏■いい会議の状態はよく「ワイガヤ」と言われます。つまり「ワイワイガヤガヤ」した状態です。そういう会議の99パーセントの発言は、ゴミかもしれない。でも、残り1パーセントのダイヤモンドを見つけるためには、「ワイガヤ」を続ける意味はあるんです。
「ワイガヤ」を作るためには、重役部屋のテーブルみたいな重厚で相手との距離があるようなテーブルではだめですね。どうしても会議も重くなるんです。だから、会議室のテーブルを丸テーブルにするだけでもかなり違ってきます。
距離感というのは大事です。ある自動車会社にクリエティブルームという部屋があるんです。そこには、3人用のすごく小さな丸テーブルに6人分椅子がある。そこに座るだけでお互いの距離が近くなる。男同士、身体が触れるくらいの距離にいて黙っていると、気恥ずかしくなって話さざるを得なくなる。そう意図的に配置しているんですよ。
――雰囲気作りみたいなものは、空気を醸し出すというようなことよりも、そうせざるを得ない物理的な仕掛けを作ってしまうことで、作り出せるというのはおもしろいですね。これは、さっきの逆向きの足跡を出入り口に描いておくというくふうに相通じるアイデアですね。
鈴木氏■そうですね。コミュニケーションは距離関係が重要なんです。フランス料理店のテーブルでわいわい盛り上がるのは難しいですけど、もっと気軽にコミュニケーションを取りたいと思えば、日本みたいに地べたで車座になればわいわいと盛り上がりやすい。そもそも、椅子って西洋のものなんですよ。椅子に座ると人は西洋的な「個」になってしまうんです。
――環境がコミュニケーションのきっかけを生むという話で思い出したのですが、さっき御社、コーチ・エィのオフィスを見せてもらいましたが、ここのオフィスには、いっさいパーティションがないですよね。こうしたオフィスの環境作りも、社内のコミュニケーションのためのくふうなんですか?
鈴木氏■うちの会社は、まったくパーティションを設けずに、しかも固定の席が決められていないフリーアドレス式になっています。とにかく毎日同じ席に座るな、違う席に座れと言っています。
こうしたオフィスの環境だと、コミュニケーションが生まれやすいので、うちの会社はいつもガヤガヤしてるんですね。ただ、弊社は、コミュニケーションを生むことが仕事ということもあって、それでいいんですけど、それほどコミュニケーションを必要としないオフィスでこれをやると、むしろストレスになったりもします。
――小学校のころは席替えが楽しみでしたけど、毎日席替えがあったら苦痛かもしれません。誰の隣になるか毎日緊張してしまって(笑)。オフィスの場合も、仕事の内容に合った環境作りとかがあると思いますが、そういったノウハウもあるんですか。
鈴木氏■ある会社が、仕切りのないオフィスから、低めのパーティションがあるオフィスに引っ越したんですね。そうしたら、その会社の人事局長さんが、明らかにコミュニケーションの量が減ったというんです。そういう、ちょっとした変化によって、コミュニケーションの量っていうのは大きく変わるんです。
パーティションを導入することで、集中力が高まって、個人の生産性が上がるという要素もあるので、どちらを取るかは業務の内容次第ですね。
――鈴木さんはアメリカで心理学の勉強を積んでコーチングの仕事を始められたわけですが、こうした、コミュニケーションのための環境、仕掛け作りみたいなものも、心理学から学ばれた知識なんでしょうか。
鈴木氏■コミュニケーションが発生する人間同士の距離や、向かい合う際の角度のことを考えたり、環境を考えたりするサイコジオグラフィというジャンルがあるんです。訳せば心理地理学になりますね。
――コーチというのは、もっと高圧的で、教え付けたりするような仕事なのではないかと思っていたので、今日話をうかがったことで、かなり印象が変わりました。面と向かってアドバイスをするんじゃなくて、自発的な行動を促す動機付けを見つけたり、職場環境を考えてコミュニケーションを発生させたりするのがコーチの仕事なんですね。
鈴木氏■そうですね。人って他人から言われたことなんて、絶対にやらないですからね(笑)。
(取材・構成:速水健朗)
●鈴木義幸(すずき・よしゆき)
株式会社コーチ・エィ取締役社長。
チーフエグゼクティブコーチ。国際コーチ連盟マスター認定コーチ。慶應義塾大学文学部を卒業後、株式会社マッキャンエリクソン博報堂(現・株式会社マッキャンエリクソン)勤務を経て渡米。ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程を修了し、テネシー州立女子刑務所で女囚の行動変容プログラムのファシリテーターを務める。
帰国後、1997年のコーチ・トゥエンティワンの設立に参画し、コーチ・エィ設立と共に副社長に就任、2007年より現職。
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