DX人材をどう確保すべきか? “アジャイル化”するプロジェクトに必要なこととは
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DXに成功する企業・組織に共通している特徴とは?
DXは多くの企業にとって重要なテーマだ。この「デジタル技術を活用して新たなビジネスを創出したり、既存ビジネスを変革したりする取り組み」について現状では、コロナ禍という混乱の中でもしっかり成果を出せている企業と、そうでない企業に分かれているようだ。では、両者を分けている要素は何だろうか。グローバルでプロジェクトマネジメントの標準策定・資格認定・交流などを担うProject Management Institute(PMI)でアジア太平洋地区の責任者を務めるベン・ブリーン氏は、次のように説明する。
「変革に成功している企業のほとんどは、組織内の仕事の進め方が柔軟で、人材をとても大切にしています。こうした企業にはテクノロジーをツールとして活用し、人が変革を主導しているという特徴があります。このような企業を、我々は『ジムナスティックな組織』と呼んでいます」(ベン氏)
「ジムナスティックな組織」とは、PMIがプロジェクト・プロフェッショナルを対象に実施したグローバルオンライン調査(2020年10~11月に実施、N=3950)を報告したレポートで取り上げられた概念だ。一言でいえば「プロセスよりも成果を重視し、変化に柔軟に対応できる組織(アジャイルな組織)」と定義できるが、他にも次のような特徴がある。
- ・可能な限り最高の働き方を選択する。
- ・変化への対応が優れているだけでなく、変化を受け入れようとする。
- ・人材を大切にする。
そしてベン氏は、ジムナスティックな組織のほうが、変革に成功する確率が20%ほど高くなり、従来型の組織は、そのまま何も変わらなければ、縮小もしくは消滅の方向へ向かうと指摘する。
では、企業がジムナスティックな組織になるには、何をすればよいのだろうか。
組織の変革をリードするのは、アジャイルなプロジェクトを管理できる人材
すでにDXに取り組んでいる企業は、その成功には組織そのものの変革が必要であることを実感しているはずだ。特に従来のヒエラルキー型組織のままでは、DXを成功に導くのは難しい。求められるのは、ジムナスティックな組織への変革をリードする人材の獲得・育成である。そこで注目されているのが、PMP(プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル)である。PMPは、非営利団体のPMIが主催しているプロジェクトマネジメントに関する国際資格であり、プロジェクトマネジメントのスキルを証明するグローバルスタンダードである。
一定以上のプロジェクトマネジメントの指揮・監督経験があり、公式な研修を受講した上に、資格取得後も3年ごとに学習・研修の履行を求められるなど、そのハードルは高い。特に日本では、アジャイル開発でプロジェクト管理の手法が急変しているIT業界を中心に注目されている。
「私が担当するアジア・パシフィック地域では、日本は中国に次いで有資格者が多く、その数は約4万人です。特にIT分野でPMPを取得するビジネスパーソンが増えています。ちなみにオーストラリアは約1万人、シンガポールは約1万人、韓国は約6000人という数字です」(ベン氏)
しかし、そもそもPMPの有資格者がジムナスティックな組織への変革をリードできる根拠は何か。
「それは、我々がお客さまの声に耳を傾け、環境の変化に合わせてPMPの内容を変革してきたからです。現在のようにアジャイルなプロジェクトが増える中、PMPの有資格者は、前述のパワースキルに長け、プロジェクトを完遂できる能力が高いことが分かっています。実際にグローバルの平均値では、PMPの有資格者の給与は22%高いのです。それだけ企業から求められている資格だといえます」(ベン氏)
また、当たり前だがDXの領域でもプロジェクトマネジメントは超重要事項だ。経営陣がDXについてビジョンと計画を示した後、つまり「実装」の領域では、各プロジェクトの会議を回すために分科会を運営することが必須である。この分科会ではさらに現場で行動に移すべきことをロジカルに分解して推進することになる。
この一連の流れにこそ有効なのがプロジェクトマネジメントオフィス(組織内の個々のプロジェクトマネジメント支援を横断的に担う部門やシステム)であり、プロジェクトマネジメントである。DXを推進するメンバー各自が、担当領域について、「いつまでに」「何の成果物を」「どの程度」やるのかという工程表に基づき、確実にやりきるためには、プロジェクトマネジメントが重要なのだ。
PMPはGAFAを含むデジタル領域をけん引するグローバル企業にも重視されている。PMIは「Global Executive Council」という世界的な企業のエグゼクティブからなる組織を運営しているが、そのメンバーにはIBM、アマゾン、マイクロソフト、NTTデータなどが名前を連ねる。その中のたとえばIBMは、自社だけで2万5000人のPMP資格者を有する。
この協議会では、プロジェクトマネジメントという専門職の将来を指揮し、継続的な成長と成功を確実にするため、適切な内部リソースを割いたりPMIと連携したりして、「プロジェクトマネジメント」という概念をいかに改善するかついて活発な議論が交わされている、
PMPがキャリアアップにつながる理由
多くのビジネスパーソンが自らのキャリアアップのために実際にPMPを目指している。「PMPは業界に依存しません。どのような業界でも問題を解決するソリューションを生み出し、経営陣とディスカッションできるスキルを獲得し、組織にインパクトを与える『チェンジメーカー』となれます。だからこそ、世界中に数百万もの資格者が存在し、その数はいまも増えているのです」(ベン氏)
なお、PMIがジムナスティックな組織の変革を支援するために提供しているのは、PMPだけではない。たとえば、最近では「PMI Citizen Developer」というカリキュラムの提供も開始している。
「これはローコードまたはノーコードのプラットフォームを活用して、ITの専門家ではないユーザーが問題解決に必要なアプリケーションを開発できるように支援するプログラムです。実際にプラットフォームを使って開発するユーザー向け、彼らを支援して開発をリードするビジネスアーキテクト向けのコースなどを用意しています」(ベン氏)
「PMI 4.0」というビジョンのもと、PMPのさらなる普及・拡大を目指す
PMIでは、今後もPMPの内容をよりアジャイルにシフトしていく計画だ。中でも最近の注目ポイントは、「ディシプリンド・アジャイル(Disciplined Agile)」という新しいアジャイル認定の体系がリリースされたことだ。「現在、アジャイルの世界は多くの手法やメソッドが乱立しています。そこで我々は、すべてのアジャイルの手法をカバーするツールキットを提供することにしました。これが『ディシプリンド・アジャイル(Disciplined Agile)』です。これにより、状況に合わせて最適なアジャイルの手法や技法を選び、活用できるようになります」(ベン氏)
こうした取り組みを通じて、PMIでは日本におけるPMPの有資格者をさらに増やしていくという。
「我々は『PMI4.0』というビジョンを掲げ、現在の10倍のインパクトを創出したいと考えています。現在、日本における資格者は約4万人ですので、その数を40万人にすることを目指します。そうすることで、社会、プロジェクトマネジメント全体、あるいは地域・コミュニティに対してインパクトを拡大したいと考えています」(ベン氏)
DXに取り組んでいる企業にとって、最も苦労するのがそれをけん引する人材の確保・育成だろう。PMPという資格は、こうした人材を見つけ、育てる1つの指標になるはずだ。もちろん、キャリアアップを図り、自らの価値を高めたいビジネスパーソンにとっても、PMPは魅力的な資格だ。ぜひ、その価値を確認してもらいたい。
Project Management Institute/一般社団法人 PMI日本支部