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2022年8月、米国でバイデン大統領の署名により「インフレ削減法」が発効した。100兆円を超える規模の経済復興法だが、その一環で実施される水素生産に対する税額控除により、米国で水素産業が一気に拡大する可能性が見えてきた。水素経済は、2050年には年間440兆円以上の収益を生み出すとされる巨大産業。インフレ削減法が水素産業にどのような影響をもたらすのか。
年間440兆円以上、ビル・ゲイツ氏も注目する水素産業
世界的にエネルギー安全保障の重要性に対する認識が高まっており、各国ではエネルギーの生産・確保に向けた動きが加速中だ。
米国では、2022年8月16日に発効した「インフレ削減法(Inflation Reduction Act)」により、水素産業と原子力発電産業に追い風が吹く公算が高まっている。
特に水素産業は、1年間に生み出される価値が2050年に年間3兆ドル(約440兆円)に達するといわれる注目産業であり、インフレ削減法により、クリーン水素(グリーン水素)へのシフトが活発化する
見込みだ。
クリーン水素は、
ビル・ゲイツ氏を筆頭にさまざまな投資家が資金を投じる分野でもあり、
メディアもインフレ削減法の影響に関心を寄せている。
インフレ削減法で水素が注目される理由
米国では、気候変動、エネルギー安全保障、新産業の育成という観点から水素に対する関心が高まっている。
インフレ削減法の枠組みでも、気候変動とエネルギー安全保障が主要課題の1つとして掲げられており、多くの連邦予算が費やされる
見込みだ。
現時点で把握されているインフレ削減法の連邦予算は7,000億ドル(約100兆円)以上。主に医療費の削減、税務執行能力の強化、エネルギー安全保障の強化に
使われることになる。
このうちエネルギー安全保障/気候変動関連課題に対して、およそ3,700億ドル(約54兆円)が投じられる
見込み。
二酸化炭素の排出を抑えつつ、エネルギーを供給する手段として、これまでは風力や太陽光といった再生可能エネルギーに関心が注がれてきたが、供給の不安定さやエネルギー貯蔵ができない点など、さまざまな課題が明らかになった。水素はこれらの代替手段として
注目されているのだ。
風力の場合、風が吹かないとエネルギー供給はできない。太陽光も同じで、曇りや雨の日には供給ができない。安定的に供給するには、エネルギーをバッテリーに貯蔵しておき、必要なときに必要な分を供給することが求められる。しかし、現在のバッテリー技術では、安定供給に十分なだけのエネルギーを長時間貯めるのが難しいとされる。
たとえば、日照時間が長い夏季に太陽光でエネルギーを生産し、冬期まで貯蔵するのは非常に難しい。この点、水素であれば貯蔵することも可能となる。
また長距離移動を前提とする飛行機や船舶のエネルギー源としても水素が有力候補となっている。現在のバッテリー技術では、サイズと重量が大きくなりすぎるため長距離移動は不可能。またチャージする時間も非常に長くなるといった課題が指摘されている。一方、水素であれば貯蔵タンクのサイズ・重量を抑え、移動に十分なエネルギーを供給することが可能となる。
【次ページ】コストがボトルネック、クリーン水素普及への課題
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