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- 2023/09/14 掲載
異常気象と水素活用は「相性最悪」、水素自動車の普及がこれから「激ムズ」の納得理由
連載:EV最前線~ビジネスと社会はどう変わるのか
水素ステーションとEV充電網との「決定的」な差とは
水素エネルギー供給・利用に関する技術開発や調査研究を行う、一般社団法人水素供給利用技術協会(HySUT)の資料によると、現在、国内の水素ステーションは162カ所ある。これに対し、電気自動車(EV)用の急速充電器は、約7600基がすでに整備されている。急速充電器が一旦は設置されながら、利用頻度が少ないなどの理由で、廃止や機器の代替が行われたとの報道もあるものの、水素ステーションと比べれば40倍以上の数がすでに整っている。なぜ、これほどの差が生まれるのだろうか?
2022年度の経済産業省による水素ステーション設置に向けた補助金額は、110億円であった。
この金額を聞いても、国の予算は規模が大きく、その効果を実感するのは難しいかもしれない。しかし、たとえばEVの充電器整備のため、2012年度の補正予算において、経済産業省は1,005億円を計上した。水素ステーション整備の予算と比較すると約10倍の開きがある。
その上で、水素ステーションの設置には数億円の費用が掛かるとされる。一方、急速充電器であれば1,000万円も投じれば済むだろう。急速充電器の設置費用は、水素ステーションの1/10以下であることがわかる。
つまり、水素ステーションに対する国の予算規模は急速充電器の1/10である一方、設置費用は急速充電器の10倍以上となる水素ステーション整備が、なかなか進まないのは当然の結果と言えなくもない。国の政策としても、水素社会の実現が厳しいことを示していると言えるのではないだろうか。
水素ステーションに見え隠れする「ある矛盾」
より身近な民間の経営感覚でも見てみよう。著者がかつてHySUTを取材した折、水素ステーションの設置には、500平方メートル(約151坪)の敷地が必要であるとの説明を受けた。
これは、水素ステーションにはいくつかの機器の設置が必要になるためだ。まず、製造された水素を、水素ステーションに運搬するローリー・カードルと名付けられたボンベを置いておく場所がいる。そのボンベ内の水素ガスの圧力は約20MPa(=約200気圧)なので、70MPa(約700気圧)の車載水素タンクに注入するため、80MPa以上の高圧にあらかじめ圧縮しなければならない。そのポンプの設置も必要だ。
ただし、水素に限らず、気体は圧縮すると温度が上がる。温度が高くなると気体は膨張する。これは、物理の原理原則だ。したがって、水素ガスをポンプで圧縮し圧力を高めるほど、逆に膨張し、ある時点でそれ以上高圧にできなくなる。
そこで、温度を下げるプレクールという工程が必要になり、そのための冷凍機を用いることになる。いわば、マッチポンプ(マッチで自ら火をつけておいて、その火を自ら水をかけて消すという、矛盾した自作自演)のような作業が行われるのである。これでは、エネルギーの消費効率が上がるわけもない。
この点について、かつて本田技術研究所の研究員は、現状の電源構成では二酸化炭素(CO2)の排出をかえって増やすことになると言った。そのためホンダは、2008年にリース販売を始めたFCXクラリティでは、70MPaではなく半分の圧力となる35MPaの水素タンクを用いた。35MPaであれば、プレクールが不要だからだ。その分CO2排出量を減らすことができる。
しかしその後、2016年のクラリティ・フューエルセルでは70MPaの水素タンクをホンダも採用した。その理由について、本田技術研究所の研究員は「現在もなお、プレクールを使う70MPaへの高圧化はCO2排出量を増やす状況に変わりはない。しかし、世界的な水素ステーションの充填圧力が70MPaに統一されたため、70MPaの水素タンクを車載せざるを得なかった」と説明した。
こうした矛盾をはらみながら、水素ステーションは整備が進められている側面があるのだ。そして上記のような各種機器を設置し、その上で車両に水素を充填するディスペンサーを設けるには、先ほど言及したように150坪ほどの敷地が必要になるというわけだ。 【次ページ】駐車場経営のほうが「稼げる」ワケとは?
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