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- 2022/02/24 掲載
雇用保険のマルチジョブホルダー制度とは何かをわかりやすく解説、どれくらい雇用保険料を引かれるのか
雇用保険の対象になるシニアが増える?
2022年(令和4年)は年金制度が改正される。この年金改正については前回のコラムでも解説したが、2022年はもう一つ、シニアの働き方に関する大きな制度の変更がある。それが今回解説する「雇用保険マルチジョブホルダー制度」で、この制度は今年1月1日にすでにスタートしている。詳しい解説はあとから行うとして、簡単に言うと、雇用保険マルチジョブホルダー制度とは、今まで1つの企業での雇用では勤務時間が少なく雇用保険の適用の条件に当てはまらなかった人のうち、65歳以上の人については、他の複数の企業の勤務時間を合算して時間が満たしていれば、雇用保険が適用されるようになるという制度だ。
1つの職場で働く時間は短くとも、複数の職場を合わせるとかなりの時間働いている人を雇用保険の対象とできるようにすることは、若い労働者向けの制度も議論されていたが、今回の制度は65歳以上のみのものだ。
高齢になり、フルタイムの仕事を見つけにくくなった人が、いくつかの仕事を掛け持ちしている場合、1事業所の労働時間では雇用保険が適用されず、解雇などされても失業給付が受けられなかったのが、今後は雇用保険に入ることができ、失業などに備えることができる。
一方で、雇用保険料は企業と労働者どちらも支払っており、2月1日に雇用保険料の引き上げが閣議決定された情勢の中、これまで対象ではなかった労働者が新たに対象となることで、企業の負担も労働者本人の負担も増すのではないかという懸念の声も出ている。
企業の負担増も考えると、決して65歳以上のシニアだけの問題にとどまらないこの雇用保険マルチジョブホルダー制度について、本当に労働者にとってプラスになるのか、今回は考察していきたい。
65歳以上なら副業先の勤務日数も合算できる
1月1日から始まった雇用保険マルチジョブホルダー制度は、前述のとおり65歳以上が対象となっており、あたかも老後の就業機会確保や、その際のシニアの失業リスクへの対応が目的のような印象を受ける。しかし、厚生労働省がこの制度の検討を始めた時点では、全年齢の労働者を対象に議論されており、どちらかと言えば、副業・兼業を推進する政府の方針と、1カ所の事業所での労働時間しか判断基準としない雇用保険のルールとの整合性を図りたいような方向だった。
2010年代後半に雇用保険マルチジョブホルダー制度の議論が進む中、長い時間働く仕事はそのままで短い時間勤務する仕事を失った場合も保障するのか? 1つの仕事を失っても影響の少ない収入がある人物も保障するのか? といった声を受け、徐々に対象者を絞った「試行的な導入」が検討され、「制度設計にも親和性が高く、かつ、財政影響を予測しやすい対象者層」として、まずは65歳から導入することが決定したようだ。
つまり、雇用保険マルチジョブホルダー制度が今回、65歳以上に導入されるのはテストの要素によるもので、シニアの失業リスクを深刻に考えたものではなく、今後、徐々に若い世代にも導入される可能性があることに注意が必要だ。
さて、雇用保険マルチジョブホルダー制度で被保険者となる要件は以下のようになっている。
- 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
- 2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること
上記の要件すべてを満たす人が、特例的に雇用保険の被保険者となることができる。
ちなみに通常の雇用保険の手続きはすべて会社の担当者が行うが、雇用保険ジョブホルダー制度は労働者本人がハローワークに申し出なければならない。労働者から書類への記載を依頼された企業が、それを拒否したり労働者に不利益な取り扱いをしたりすることは違法となる。
雇用保険ジョブホルダー制度によって小雇用保険の被保険者となった人は「マルチ高年齢被保険者」と呼ばれる。被保険者の資格は、「申し出た日」からで「働き始めた日」ではなく、さかのぼることもできないため、注意点となる。ちなみに企業にも労働者が「マルチ高年齢被保険者」の資格を得た日以降、雇用保険料の納付義務が発生する。
【次ページ】マルチジョブホルダー制度のメリットとは?
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