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規制緩和が進む現在、金融機関でも「ネット経済のバリューチェーンに対応した金融創造」が求められている。ネット経済で資金利益や役務収益を得るための「新しい預金・貸付・為替の構築」とは何か。新しい融資「POSファイナンス」「インボイスファイナンス」を含め、日本金融通信社 特別顧問 小俣 修一氏に聞いた。
より具体的にBaaS戦略を考える
連載の
4回、
5回では、デジタルバンキング領域で日本の3~5年先を行く、欧米や東南アジアの状況を解説しつつ、「ネット経済に参画しサービスを提供できないと金融機関は生き残れないという点で、海外の金融機関は合意済み」である現状を紹介してきた。
小俣氏は「欧米諸国が取り組んでいる海外事例を見ることで、デジタルバンキングの時代が来ることは明白です。今後は、メガバンクだけでなく地域の金融機関もネット経済のバリューチェーンに対応した金融の創造を図る必要性があります」と強調する。
特にネット経済においては必ずしも価格が価値を反映しないため、「BtoC」ではなくSNSを通じて個人が商品やサービスへの意見醸成や積極的選択を行う「CtoB」のモデルで、チャネルに関係なくアクセスを捉える必要がある。その点を考慮した上で、小俣氏は「ネット経済のバリューチェーンにも対応した金融の仕組みを持てなければ、ネット経済からの事業利益確保はできず伝統的金融機関は衰退していく」と説く。
「具体的には
コアバンキングシステムをクラウド/API対応させ、BaaS基盤を構築して、組込型金融サービスを
提供することです。また、それを利用したエコシステムやマーケットプレイスを構築することによって、新しい地域金融機関の姿を新たに追求することが求められています」(小俣氏)
新しい預金、新しい貸付、新しい為替が必要な理由
これまで伝統的な金融機関は「預金・貸付・為替」を通じて金融サービスを提供し、資金利益や役務収益を得てきた。一方、ネット経済の中では手数料がほぼ無料な場合も多いので、役務収益を喪失してしまう金融機関も多い。そのため、新しい貸付の仕組みを構築しなければ、新たな利益確保ができない。
「伝統的な金融機関は、スマホアプリを経由したQRコード支払いやデジタルウォレット(個人口座からの送金を可能にする電子決済システム)に意識が行きがちでした。これまで通りの仕組みやホストコンピュータと専用線の上でサービスをデジタル化することで、『預金・貸付・為替のデジタル化対応』を済ませたと考える金融機関が多いのです。しかし“本当の意味でのデジタル化”は、BaaSによる組込型金融サービスにより、ネット経済圏の中に入らないことには始まりません」(小俣氏)
金融機関がネット経済の中でも同じように資金利益や役務収益を得るには、BaaSによる組込型金融サービスを構築し、「新しい預金」「新しい貸付」「新しい為替」を展開する必要がある。
小俣氏は「ネット経済圏の中ヘ入るためには、クラウドにコアバンキングシステムを上げていく必要がある」と
くり返し指摘してきた。現在、欧米の金融機関は「
BNPLの流行から販売時点で消費者に融資する「POSファイナンス(図の中の下方、後述)」へさらに進化する潮流がある」という。
ネット経済の中でリテールに焦点を当てる場合、「新しい預金」は普通預金をデジタルウォレット化することで対応できる。一方、ネット経済圏の中で金融機関が利益を得るための「新しい貸付」「新しい為替」を本格的に志向するには、小売商やギグワーカー、フリーランサー、中小企業などをターゲットにする必要があるという。
小俣氏は「国境のないネット経済圏の中で最先端のユーザーニーズに金融サービスを展開するには、ペイメント(支払いと送金)領域でグローバルな視点をもってサービスを提供することが必須」と指摘する。
日本国内でも2022年10月に小口送金サービス「ことら」が開始したが、東南アジアにおいて同様のペイメントサービスは、各々が連携を始めている。国際決済銀行(BIS)が掲げる、クロスボーダー決済プロジェクト「プロジェクト・ネクサス(Project Nexus)」がハブを形成するという
予測もある。
【次ページ】新しい融資「POSファイナンス」「インボイスファイナンス」
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