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デジタル化の波が金融業界にも訪れ、既存の金融機関は事業成長を目指す上で、フィンテック企業などの新興勢力との連携を模索している。そこで重要なのが、いかに他の企業と連携するかというAPI/BaaS戦略だ。海外の動向を踏まえて、その肝となる「API/BaaS戦略」について、日本金融通信社 特別顧問 小俣 修一氏が解説する。
失敗事例が示す、APIで単に連携すればいいわけではない
デジタルバンキング実現の鍵を握る「コネクティッド・エコノミー(経済活動がつながること)」の重要性が日本の金融機関には伝わっていない──。
小俣氏は「コネクティッド・エコノミーでは、とにもかくにもクラウド/APIが肝になります。ただ、そもそも『クラウド/APIとは何か』が理解されていません。共通(オープン)APIを用意しPFM(個人金融管理)のようなフィンテック企業からの要求に応えているだけでは、他の金融機関と差別化を図り新しい事業構築をしていくことはできません」と付け加える。
API経由で自ら他の事業者とエコシステムを構築することこそが、他行との差別化の重要なポイントになると強調する。
「エコシステムを組む先とは、特別な独自API(パートナーAPI)で結びつくため、その他の金融機関の関係性を排除することになります」(同氏)
しかし、事業者の立場からは多くの金融機関と組んだほうが、より利便性の高いサービスを提供できる可能性もある。たとえば国内初のデジタルバンクを標榜するみんなの銀行との連携例としてPixivやユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスがあるが、そうした企業は他の金融機関とも連携した方が良いのではないだろうか。
小俣氏は、「その点こそがAPI戦略の論点である」と語る。たとえば、英国のスターリング銀行(Starling Bank)を引き合いに出す。同行は英国フィンテック企業マネーボックス(Moneybox)が提供するサービスとのAPI接続で「痛い目を見た」歴史があるという。
スターリング銀行の協業先の1つであるマネーボックスは、「おつり投資」をさせるデジタル資産管理のサービスにおいて、貯蓄投資回数を改善するために同行のAPIを活用した。ただ、買い物の度に出てくる小銭のリアルタイム貯蓄の機能であったため、他の銀行に真似されやすかったという。
その後、マネーボックスは、モンゾ(Monzo)やレボリュ―ト(Revolut)などとも協業することになる。スターリング銀行は、マネーボックスと独占的な関係構築ができず、改めてマーケットプレイスを構築するといった戦略的見直しを余儀なくされたのだ。
「マイクロサービスのつくり方自体が、どの金融機関でも使っているような普通のAPI形態を取っていたことが原因です」(小俣氏)
BaaS基盤の性質を理解した上で、API戦略を取るべし
小俣氏は「API戦略こそが、自分たちの生き死にを左右する」と認識し、さらに競合を排除可能なエコシステムを構築することを見据える必要があると説明する。
「連携先企業が組んでよかったと思わせるようなBaaS基盤の提供こそが、これからの金融機関に必要なのです。さらに大事なのは、どのフィンテック企業と連携するかという点です」(小俣氏)
小俣氏はその理由として、「エコシステムの構築時に、相対するのはその金融機関だけではありません。BaaS基盤上の付加価値となるフィンテック企業とも連携できることが重要です。同じ基盤上に乗っているフィンテック企業が魅力になることもあり、その選び方こそがBaaS基盤の付加価値であり『BaaS戦略』の肝だと言えるのです」と説明する。
具体的には、フィンテックサービス同士を結ぶハブが複数ある場合、どのハブを選択すれば自分たちが最もいい形になるかを検討することだ。たとえば、スペインのビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)、ドイツのフィドール銀行(Fidor)などは、自行の基盤に乗せるアプリケーションの提携先を戦略的に選んでいるという。
小俣氏は「実際に取り組まないと理解できない点でもありますが、金融機関とフィンテックという由来が異なる2種類のBaaS基盤が存在し、それぞれの性質が異なると認識する必要があります」と推察する。フィンテック由来のBaaS提供業者の中には、「選択の幅を可能な限り広げる」という戦略を取っている企業もある。
【次ページ】組込型金融の観点でAPI/BaaSは必須
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