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  • 2022/10/11 掲載

「給与のデジタルマネー支払い解禁」は銀行業の脅威か? 経緯や論点を解説

大野博堂の金融最前線(53)

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日本でも給与のデジタルマネーでの支払い(デジタル・ペイロール)が解禁される見込みとなった。将来的には給与の支払い方法が「現金払いを原則とし例外的に銀行口座と証券口座への振り込みを容認」してきた従前の仕組みから一変する可能性もある。既にさまざまなメディアで、そのメリットやデメリットが紹介されてきていることから、今回は銀行業としていかなるスタンスで本件に対峙すべきかを考えてみよう。
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「給与のデジタルマネー払い」は実現するか?
(Photo/Getty Images)

労働基準法第24条と「デジタル払い」を実現してきた日本

 厚生労働省は2022年9月22日、給与をデジタルマネーで受け取ることを可能とする制度を2023年4月から開始するべく、パブリックコメントを募集した。制度が実現すれば今後はQRコード決済などで利用されているデジタルアカウントに直接企業が給与を払い込むことが可能となる。

 既に銀行口座で給与支払いを受けている人には「なぜ今、このタイミングで?」との疑問が浮かぶ制度かもしれないが、今回の法規制の見直しは、あくまで給与の「デジタル払い」ではなく「デジタルマネーでの支払い」を可能とするものである。

 現金支給という「アナログ」対応は既に「銀行口座を用いたキャッシュレス支払い」へと変遷してきたのであり、立派な「デジタル払い」を実現しているのだ。

 そもそも現在の労働基準法第24条では、賃金支払いに関する5つの原則を定めている。具体的には、給与は(1)通貨で(2)直接に(3)その全額を(4)毎月1回以上の頻度で(5)決められた期日に支給せねばならない、という5つである。

 昨今は銀行口座への振り込みが一般化しているが、これは例外規程での対応であり、実は証券口座への振り込みも可能とされている(いずれも労使の合意がある場合に限る)。ただし、証券口座への給与振り込みが可能であることは、世間に認知されていない。そうした状況の中で、なぜ、デジタルマネーでの給与支払いがそこまで必要なのだろうか。

厚生労働省が公表したアンケート調査の結果をどう見るか?

 今回のパブコメに先駆け、厚生労働省は直近の2022年9月13日に開催された労働政策審議会労働条件分科会(第178回)に示したアンケート調査を実施している。以下の図を参照してほしい。調査結果によると「4割の利用者が、自身が利用するコード決済サービスのアカウントに賃金の一部を振り込むことを検討する」と回答したという。

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資金移動業者の口座への賃金支払に関する労働者のニーズと考えられる背景
(出典:厚生労働省 労働政策審議会労働条件分科会 第178回)

 そもそも、アンケートによる統計調査にはバイアスが加わるものだ。こうした新たな取り組みについては、特に意識せず前向きな回答を寄せる傾向がある。

 たとえば、田舎町で冬季に交通事情が悪くて外出ができない地域などでは「新しい交通インフラができたらあなたは利用しますか?」というアンケートを採ると「利用を検討したい」「是非利用したい」といった回答が大半を占めるケースは珍しくない。

 しかしこうしたアンケートにも関わらず、住民向けのオンデマンド交通を提供してみたら「料金が高いので」という理由でほとんど利用されなかったという場合もある(こちらは、東北地域で確認された事例だ)。アンケートは「聞き方ひとつ」で答えを有意に導き出せるテクニックも存在する。そのレトリックに溢れていることを忘れてはならない。

 さらに今回の厚生労働省の審議会で提示されたアンケート結果は、その実施タイミングにも違和感がある。図で示されている通り、アンケートの実施は3年近く前の「2019年12月20日から25日」にかけて「コード決済を利用している利用者」を対象に実施されたものであることに留意が必要だ。

 この時期は、政府が「キャッシュ還元」と銘打ってしきりにキャッシュレス決済の利用を推進してきた時期だ。当時はコード決済を利用すると相応の還付が得られていたことを忘れてはならない。つまり、当時の環境では「現金よりもコード決済の方が儲かる」時代であり、この時点であれば(比較的堅くて古い)筆者ですら賛意を示していたことだろう。

 その上でキャッシュ還元キャンペーンもなくなり、加盟店がキャッシュレス決済に手数料を支払う必要が出てきた現在においては、同様のアンケートを採った場合、いかなる回答が得られるのだろうか。

【次ページ】「デジタルマネーでの給与支払い」米国の状況とは
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