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  • 2021/01/21 掲載

経営方針を理解せず「動かない部下」へのマネジメントはどうすべきか?

連載:大杉潤の「人生100年」時代のキャリア相談所

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今回の相談者は、大手金融機関に勤務するアラフォーの管理職です。自らも目標数字を抱える最前線のプレーヤーであると同時に、部下や後輩の育成・指導も担い、チーム全体としての成果も求められるプレーイング・マネージャーとして忙しい日々を送っています。金融業界は経営環境がますます厳しくなっています。自分の姿勢を見せるだけでは部下はなかなか危機感を感じて迅速に行動してくれません。動かない部下へのマネジメントはいかに行うべきかを相談に来ました。

【大杉潤への相談内容】

大手金融機関マネージャー 水野 浩二 <仮名> 39歳

 大手金融機関でマネージャーをしています。いわゆる中間管理職で、自らも担当や目標数字を持ちながら、部下や後輩の育成・指導も行ってチーム全体としての成果も求められるプレーイング・マネージャーとして仕事をしています。

 金融機関の業績は不況とデフレ経済が長く続いていることによるゼロ金利や資金需要の低迷で厳しい環境の中、さらにフィンテックと呼ばれる技術革新の影響、新型コロナ感染症拡大による景気減速で、生き残り競争のステージに入ってきました。経営陣は強い危機感を持って新たな中期経営計画を発表し、大胆なビジネスモデルの転換も打ち出しています。

 一方、マネージャーとして会社の目指す方向性を部下に伝えていますが、同じような危機感を感じてすぐに行動するところまではなかなか行きつきません。むしろ反対に、若手社員を中心に残業削減やボーナスカットなどの待遇に関する不満や「仕事にやりがいを感じられない」といった声が出ていて、チーム一丸となって目標達成に向かう雰囲気を作れない状況です。

 部下の残業を減らした分の仕事は管理職である私がカバーする形になって、「あまりにもマネージャーの負担が重すぎる」と感じています。このままでは心身ともに消耗して限界になりそうです。金融機関の管理職としての経験も長い大杉さんのアドバイスをぜひお願いします。

【大杉潤の答え】これから部下に求められるのは「エンゲージメント」

 最初に結論から申し上げましょう。水野さんのように、ますます負担が重くなるマネージャーはどのように部下の育成・指導や組織運営をしていけばよいのか。私は「エンゲージメント」が企業や組織の競争力を決める最大のキーになると考えています。「エンゲージメント」とは、社員個人の成長と会社組織の成長が一体になっていると感じる状態です。会社の成長のために個人の成長やスキルアップが犠牲になってはいけないし、組織の成長に貢献しない個人の成長であってはならないのです。

 かつての部下育成・指導は、会社の進むべき方向が明確で、モデルになる上司像もはっきりとしていたため、上司の背中を追いかけていく形でのキャリアアップが可能でした。会社の成長とともに、社員の昇格や待遇アップも約束されている状態だったのです。しかしながら、1990年代のバブル崩壊以降は、日本全体がほとんど経済成長しない時代になり、右肩上がりの会社の成長もなくなりました。

 そうなると、若手社員のモチベーションを上げていくことが難しくなります。すべての社員の待遇向上は無理で、そうなれば成果主義に近い人事評価になっていきます。会社の成長が止まれば管理職ポストも増えないし、ピラミッド型の組織構成もいびつになってきます。

 次第に、アメとムチで部下のモチベーションを上げていく従来型のマネジメントでは社員が動かなくなりました。まして、自らの頭で考える課題解決もできないし、キャリアの自律も図れません。

 現在の若手社員は、「社会にいかに貢献しているか」や「自分の成長やキャリアアップにどれだけつながるか」を仕事のやりがいと考えており、やりがいを感じられない仕事には積極的に取り組まなくなっています。目標や実績、それに対応する人事評価や処遇といった要素だけでは動かないのです。

 したがって、マネージャーの役割は、会社が目指す方向と部下の担当する仕事がいかに社会に貢献するものか、いかに部下自身の成長やキャリアアップにつながるのかを、自分の言葉で伝えることが必要です。そのためには、普段から部下はどんなことに興味関心があり、何がモチベーションを上げるのかを知らなければなりません。



部下一人ひとりの強みを把握する

 また、部下一人ひとりの強みを把握し、それをさらに磨くことで成果を上げ、どのように組織に貢献できるかを示す必要があるでしょう。こうした部下の現在の状況を細かく知るためには「雑談」などのこまめなコミュニケーションが必要です。

 部下の一人ひとりに個別に困っていることやニーズを聞き、コーチングしていくための1 on 1(ワンオンワン)ミーティングが重視されているのもそのためです。こうした公式のミーティングも有効ですが、もっと日常の業務の中で頻繁に「雑談」をしていくことも必要でしょう。

 「100人いれば100通りの働き方がある」という信念を持って、画期的な人事制度改革を断行し、「働き方改革のフロントランナー」と言われているグループウェアで有名なサイボウズ株式会社では、人事制度改革の前に、経営トップの青野社長と山田副社長が徹底的に社員と「雑談」をして、そのニーズを聞きまくったそうです。

 そこで初めて社員の働き方に関する多様なニーズを知り、現在の人事制度を作り上げたと言います。実は同社の山田副社長は、私が興銀広島支店で営業課長をしていた時の部下なのですが、彼の初めての著書『最軽量のマネジメント』(山田理著・サイボウズブックス)にその経緯が詳しく書かれています。経営陣と部下の板挟みに悩むマネージャーには必読の書としてお薦めします。

【次ページ】マネージャーの負担が増えた背景
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