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米アップルがスタートした預金サービス(いわゆるアップル銀行)が驚異的なペースで顧客を獲得している。米国は急激な金利の引き上げで金融不安が発生しつつある状況であり、高金利のサービスが登場すると、金融システムがさらに混乱する可能性がある。同社は日本市場への進出も検討していると報道されており、これから金利が上昇する日本においても他人事ではない。
他社を圧倒する金利
米アップルは2023年4月17日、同社のクレジットカードであるアップルカードの保有者向けに年4.15%という高い利率の預金サービスを開始した。実際にはアップルが銀行になるのではなく、投資銀行大手ゴールドマンサックスと組む形でサービスが提供されるが、アップルの知名度の高さやiPhoneの顧客基盤の厚みを考えると金融業界に与える影響は大きい。
企業の知名度の高さもさることながら、多くの人が驚いたのは、他社を圧倒する高い金利である。
日本の場合、低金利が続いていることに加え、銀行のサービスは横並びであり、どの銀行に預けても金利はほぼ同じになる。米国の場合、商品内容によって金利にバラツキが生じるのことは当然のことと理解されており、全体的な金利水準も日本より圧倒的に高い。だが、日本における普通預金に相当するサービスの金利が4%台というのは、米国人にとっても驚きの数字である。
しかもアップルという超有名企業が提供している金融サービスであることを考え合わせると、このサービスはやはり破格とみて良いだろう。
それだけではない。アップル銀行のサービスは、最低残高などの制限もなく、カードの保有者であればごく簡単な手続きで口座を開設できる。米国では審査基準に満たないことから銀行口座を開設できない人が一定数存在しており、口座の開設そのものが容易ではない。十分な預金残高がなく信用情報が低くても自由に口座を開設できるメリットは大きく、若年層などを中心にかなりの顧客を獲得する予想される。
これは消費者にとっては良い話と言えるのだが、金融システム全体に目を向けると、必ずしもそうとは言えない面がある。その理由は、このタイミングでアップルが挑戦的なサービスを展開した場合、現在、懸念されている金融システム不安をさらに増大させる可能性が否定できないからである。
3行破綻のタイミングでアップルが新事業を開始
米国の中央銀行に相当するFRB(連邦準備制度理事会)は、リーマンショック以降、続けてきた大規模緩和策から脱却するため、金融引き締め策に転じており、米国では金利が急上昇している。
金利の上昇局面においては、利率が低い銀行に資金を預けていた顧客は損をするので、利回りの高い商品にマネーがシフトする。こうした動きは今年に入って顕著となっており、一部では顧客が預金を一気に引き出したことで、米シリコンバレー銀行など3行が破綻するという事態まで発生している。
今回、破綻した3行のうち2行は新興企業に特化した特殊な銀行であり、その顧客属性上、金利上昇局面での預金の動きは一般商業銀行と比較すると圧倒的に素早い。破綻したもう1行であるファースト・リパブリック銀行も富裕層に特化した銀行であり、ほかの商業銀行とは顧客属性が異なる。富裕層は経済動向の変化に敏感であり、ほかの2行と同様、急激な預金の引き出しが発生した。
こうした事情から、3行の破綻は金融システム全体の問題とは認識されていないが、金利の引き上げが今後も続いた場合、預金流出やほかの金融商品への乗り換えがさらに進むことはほぼ確実であり、金融機関の連鎖破綻が発生するのではないかと懸念する声も出ている。
こうしたタイミングで登場してきたのが今回のアップル銀行である。
アップル銀行はサービス開始からわずか4日で9億9000万ドル(約1350億円)の預金を獲得するなど、想定外のペースで事業展開を進めている。
高い知名度と高金利を背景に、同社がこのままのペースで顧客を獲得した場合、特に中小銀行からの預金流出が激しくなると予想される。アップルにとっては大きなビジネスチャンスかもしれないが、体力の弱い銀行にとっては、破綻リスクを高める結果となりかねない。
【次ページ】経済の転換点に乗じて新サービスを提供
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