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シリコンバレーバンク(Silicon Valley Bank=SVB)の破綻は経営不安が表面化してから3日間という短期間に起こった。信用不安の拡大を懸念した米金融当局による預金の全額保護も即座に発表されたが、その後の買収先選定は難航し、決定に2週間以上かかった。その経緯と破綻処理の内容を解説するとともに、その間にみえてきたことをまとめてみたい。
シリコンバレー銀行「破綻処理」の内容
3月14日掲載の「
緊急解説 」においては、いかにSVBが短期間に破綻に追い込まれたかを説明したが、その後買収先が決定し、一応の決着をみるまでの主な動きを振り返ってみたい。
・預金の全面的保護
米国の財務省、FRB(米連邦準備制度理事会)、FDIC(連邦預金保険公社)は連名で、SVBの預金が保護されるとともに、そのために税金が投入されることはなく、米国の銀行システムの安定性は確保されるとの声明を3月12日に発表した。
FDICは翌日の月曜日に銀行の営業開始にあわせて、さらに具体的な説明として、預金全額の払い戻しがSVBよりスムーズに行われることを言明して預金者の不安を解消する
対応をとった 。
・ファースト・シチズンズ・バンクによる買収
FDICの管理下に置かれていたSVBは、ノースカロライナ州に本店を置くファースト・シチズンズ・バンクを傘下に持つ銀行持ち株会社ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズグループによって買収されることが3月26日に
発表された 。
FDICはSVBを管理下に置いた直後からに売却のための入札を実施したが、買い手はつかず、3月20日になって入札の締め切りを24日まで延長した。そのプロセスでは、SVBを部門ごとに売却することも検討された。
独占禁止法の制約から、SVBが本拠とするカリフォルニア州において高いシェアを持つバンク・オブ・アメリカやウェルス・ファーゴのような大手銀行はもともと対象にならないものと考えられていた。これらの大手銀行に次ぐーパーリージョナルクラスの銀行も、リテールビジネスでのシナジーを期待できないSVBの買収には慎重であり、最終的には中堅地方銀行のファースト・シチズンズ・バンクが
名乗りをあげる こととなった。
有力地銀ということで、ロードアイランド州に本拠を持ち、資産規模では全米13位といった規模を持つ「シチズンズ・バンク」のことかと思った人も多かったようであるが、「
ファースト・シチズンズ・バンク 」はノースカロライナ州に本拠を置き、資産額で全米第30位という規模である。
これまでにも多くの経営不振に陥った銀行の買収を行って規模を拡大してきた歴史がある。ある意味ではFDICの「お得意さん」であったことから、今回は全米16位の規模にあったSBVを吸収する「小が大を呑む」吸収合併を実現している。
・破綻処理の収支勘定
破綻時点で、SVBの総資産は約1,670億ドル、預金総額は約1,190億ドルであったのに対し、ファースト・シチズンズ・バンクは、SVBの資産のうち、有価証券の約900億ドルを除く融資債権の約720億ドルを引き継ぐが、165億ドルの割引価格で購入することになる。有価証券についてはFDICに残る。また、ファースト・シチズンズ・バンクが買い入れた融資債権に信用損が生じる場合には、FDICがその損失を負担することになる。
SVBの破綻によって200億ドルが預金保険基金の負担となることが明らかにされているが、ファースト・シチズンズ・バンクが引き継いだ融資債権から生じる損失、含み損を抱えるSVBの有価証券を売却した場合の損失によっては、負担がさらに膨らむ可能性もある。
その一方で、FDICは、潜在価値5億ドルにあたるファースト・シチズンズ・バンクの普通株の評価益権を取得した。ファースト・シチズンズ・バンクの株価が582.55ドルを上回れば、FDICに利益が生じることになる。買収合意が発表された27日の株価は前日比53.7%高の895.6ドルとなったので、株式評価益によって負担小さくなる可能性もある。
【次ページ】シリコンバレー銀行破綻処理の「評価」「残した課題」とは?
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