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フィンテックのイノベーションに出遅れたJPモルガンチェースやバンクオブアメリカなどの米銀行大手。ここにきて大手7行が、Apple PayやPayPalなどIT企業が提供するデジタルウォレットに対抗し、決済アプリの共同開発を急いでいる。2023年下半期をメドに、決済アプリを市場へ投入する予定だ。これにより、IT企業と銀行によるガチンコ競争が始まる。IT企業がひしめくデジタルウォレット分野で、出遅れ感のある「銀行連合」に勝機はあるのか。
「銀行連合」のデジタルウォレットって何?
米ウォールストリート・ジャーナルの報じるところでは、JPモルガンチェース、ウェルズファーゴやバンクオブアメリカ、キャピタルワン、PNCファイナンシャルサービス、USバンク、トゥルーイストの大手7行が共同で、デジタルウォレット(名称未定)を2023年下半期にリリースする予定だ。
開発主体は、キャピタルワンやPNCなど複数行が出資するEarly Warning Services(EWS)という会社だ。2017年に立ち上げられたEWSは、(全米1700の銀行や信用組合の口座を持つ)推定6110万人が利用する銀行系デジタル送金サービスのZelleを提供している。
新たなデジタルウォレットはZelleとは別のアプリであり、Visa・Mastercardといったクレジットカードやデビットカードの所有者に提供される。ユーザーはデジタルウォレットを自分の決済カードに紐づけることで、加盟する小売業者などで簡単に決済できるようになるという。
ウリは、Apple PayやPayPalと同じく「クレジットカードやデビットカードを持って外出する必要がなくなり、スマートフォンを持つのみでこと足りる」という点だ。実店舗での買い物の多くはいまだにクレジットカードやデビットカードで行われているが、決済カード情報をスマホに登録してしまえば、クレジットカードやデビットカードを持ち歩く必要性がなくなる。
実は米国人にデジタルウォレットは必要ない
米調査企業モーニングコンサルトの
調査によれば、2022年6月にデジタルウォレットを使う米成人の割合は60~65%であった。そのうち、毎日の生活で実際にデジタルウォレットを利用する人の割合は7%、週何回かが15%、週1回が14%、月1回が11%と、利用率は低い。中国で45%の人が毎日デジタルウォレットを利用することと比較すれば、米国の「後進性」は明らかだ。
その理由として挙げられるのが、米国で銀行系が提供する個人小切手やクレジットカード、デビットカードなど、物理的な金融サービスが非常に高度に発達しており、一朝一夕にデジタルサービスに移行しにくいという事実だ。
つまり、決済手段はすでに十分便利で選択肢も多いので、わざわざデジタルウォレットに乗り換える必要がない。そのため、小売など業者側のデジタルウォレットへの対応も遅れている。
普及のペースが遅い米デジタルウォレット市場だが、銀行が進出する先には強力なIT系の競合がひしめいている。米アクセンチュアが13カ国の1万6000人の消費者を対象に行った
調査によれば、米国の消費者の46%が少なくとも1つのデジタルウォレットを利用している。
そのうち、PayPalが35%のシェアと断トツで、それをApple Payの12%、PayPal系のVenmoの11%が追う。つまり、PayPalはVenmoを合わせれば46%と、デジタルウォレットを利用する米消費者の半分をコントロールしていることになる。
言うまでもなく、先行するPayPal、Venmo、Apple Payなどは大きなブランド力を持っており、すでに市場でひしめき合っている状態だ。またアップルが提供するiPhoneユーザーは裕福な層が多いため、Apple Payはまだ市場シェアが小さいものの、利用額の大きさで潜在的な可能性を持つ。銀行系ウォレットがこの牙城を切り崩せるかが注目だ。
【次ページ】PayPalの牙城を崩せるか? 銀行系が打破すべき「不利な条件」
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