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2022年の貿易収支が19兆9,713億円の赤字と、比較できる1979年以降で最大の赤字額となった。この主たる要因は、資源価格高騰と円安によるものだ。しかし、それだけでなく、長期にわたって継続している構造的要因の影響もある。特に問題なのは、ある分野で輸出・輸入差額のマイナス幅が大きく拡大したことだ。これは、日本の競争力低下を端的に表している。そして日本の経常収支は赤字となる。これにより重大かつ深刻な事態が起こり得る。
衝撃的な貿易赤字となった「2つの要因」
2022年の貿易収支が約20兆円の赤字となった。こうなった原因は、対前年比で見て、輸出が18.2%増にとどまったのに対して、輸入は39.2%という極めて高い値となったからだ。
輸入がこのように増加した主たる原因は、資源輸入額が急増したことだ。輸入額の対前年比でみると、原粗油が91.5%、石炭178.1%、液化天然ガス97.5%だった。資源輸入額の増加は、そのほとんどが価格の上昇による(荷動きを示す数量指数は輸入全体で対前年比0.3%減と、むしろ低下している)。
輸入価格の急騰は、ドル建て資源価格の高騰と円安という2つの要因による。為替レートの平均は、2021年が1ドル=109.41円、2022年が130.77円なので、対前年比は19.5%の円安だ。
したがって輸入全体で見れば、対前年比39.2%のうち、ほぼ半分がドル建て価格上昇の結果であり、ほぼ半分が円安によるものだ。ただし、原油などについてはドル建て価格上昇の影響のほうがずっと大きい。
円安は輸出を増やすわけではない
前述のように、2022年の輸出は対前年比18.2%の増加となった。為替レートは19.5%の円安なので、輸出額の増加は円安による名目上のものに過ぎないことがわかる。実際、輸出数量の対前年比は、1.9%の減となっている。
しばしば「円安が輸出を増やす」と言われる。しかし、実際にはそうした効果はないのだ。これまでもそうだったが、2022年の急激な円安の中で改めてそのことが確認された。
輸出数量が増えないのだから、円安は国内の経済活動を活発化する効果を持たなかったことになる。このことは2022年の第1四半期から第3四半期までの
鉱工業生産指数(鉱工業の生産活動の状況を表す指標)が、95.7、93.1、98.5と、ほとんど変化していないことを見てもわかる。
それにもかかわらず、製造業(特に大企業)の利益は増加している。これは、輸出額増加によるメリットを享受しつつ、輸入価格の上昇による原価増を売上に転嫁してしまうからだ。
資源価格高騰と円安が収まれば、貿易赤字の拡大は一時的なものに終わるかもしれない。しかし、構造的問題もある。それを考えると、貿易赤字20兆円というニュースは、決して無視できない深刻なものだ。
【次ページ】日本の競争力低下を示す「もう1つの要因」
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