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経済には生産、支出、分配の各側面を持つが、この3つの側面のどれからみてもGDP(国内総生産)は同額になる。だから、ある1つの面で変化が生じれば、ほかの面にも影響が及ぶ。これを「三面等価の原則」という。これまで行われてきた賃上げやデジタル投資といった政府・企業による施策が有効なものとなりえなかったのは、この原則を無視していたからである。この三面等価の原則について解説する。
企業会計は「付加価値」による評価が重要
企業の経済活動を測定する基本的な指標が、売上高から売上原価を引いた「付加価値」だ。「粗利益」とか「売上総利益」とも呼ばれる。そして経済全体の活動規模を測定する指標は、付加価値の合計であるGDP(国内総生産)だ。
このように、企業会計とGDP計算は密接に結びついている。それにもかかわらず、これまで両者はバラバラに論じられることが多かった。
企業会計では付加価値ではなく、営業利益、経常利益、純利益など、利益に関する指標の分析が強調される。そして、それらと売上高や株価との比率が問題とされる。
企業の業績が付加価値ではなく利益によって評価されるのは、企業を投資の対象として見ているからだろう。こうしたアプローチが必要であることはいうまでもない。しかし、それとは異なる側面を重視したアプローチも必要だ。
たとえば、企業を人々が働く場として捉え、いかにすれば賃金が上昇するかを検討するというアプローチだ。この場合には賃金の原資となる付加価値を、分析の中心に据える必要がある。そして、個々の企業だけでなく、全体を分析の対象とする必要がある。
以下では、その第一歩として、GDP計算の基本原則である「三面等価の原則」について説明する。
生産面から見たGDP
まず、簡単に説明するため、外国との経済取引がまったくなく、日本国内だけで完結した経済活動が行われている場合を考えよう。
企業(個人企業を含む)は、原材料を購入し、資本と労働(これらを「生産要素」という。資本とは工場、機械、店舗などを指す)を用いて製品を作り、販売する。これを表わす指標が売上高だ。
売上高から売上原価を差し引いたものを「付加価値」という。マクロ経済学では、「付加価値=産出額-中間投入額」と表現する場合が多い。
たとえば自動車の組み立てを行う企業で考えると、部品などを部品製造企業から購入し、労働者が工場の機械を用いて、購入した部品を自動車に組み立てる。そして販売する。販売額は部品の購入額よりも、付加価値だけ多くなっている。
製造業では、この例のように「財」が生産されるが、非製造業では「サービス」が生産される(たとえば、輸送サービス)。
これら国内で一定期間(通常は1年間)に生産された付加価値の合計を「国内総生産」(GDP)という。2020年の日本のGDPは558兆円であった。これが「生産面から見たGDP」だ。
支出面から見たGDP
生産されたもののうち、それ以上加工が加えられないものを「最終財・サービス」という。これには、家計消費、住宅投資、設備投資、政府消費、政府投資があり、こうした最終的な支出を最終需要という。
公務員のサービスは政府消費に含まれる。これは、公務員に対する給与の支払額で測定される。なお、医療給付のうち保険負担分も政府消費とみなされる。
また政府による投資とは、道路、橋などの社会資本への投資だ。
ところで、1年間に生産されたすべてのものが、その年に売れるわけではない。売れ残りは、生産者の在庫として積み上がる。他方で、1年間に売れるものはその年に生産されたものだけでなく、在庫の取り崩しによって賄われるものもある。この点を調整するために、GDP統計では「在庫投資」が最終需要の1つの項目として設けられている。
在庫投資まで含めて考えれば、最終需要の合計は生産面から見たGDPに等しくなることが分かる。そこで、以上で述べたものを「支出面から見たGDP」という。
【次ページ】「分配面」から見たGDPと「三面等価の原則」が重要な理由