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良くも悪くも話題になっているトラックGメン。これは、不当な要求などを続ける荷主企業を摘発し、運送業界の適正化につなげようと、政府が新設した部隊だ。今回、所管する国土交通省 関東運輸局を取材して驚いたことがある。トラックGメンが運送会社にヒアリングしたところ、「荷主の不適切な行い」を告発した運送会社は1割弱しかいないというのだ。世の中の運送ビジネスは、そんなに健全なのだろうか? いやいや、そんなことはないはず。荷主の悪口を言ったら報復される──。裏にはこのような「恐れ」があるようだ。気持ちは分かるが、ババを引かされるのは運送会社だ…。
運送会社の「ホワイト化」が難しいワケ
「『
物流の2024年問題』をクリアしている」。すなわちトラックドライバーの年間時間外労働時間を960時間以内に収めつつ、その他の労務コンプライアンスもクリアしていて、かつ経営状態も健全で、ドライバーに高い給与を支払うことができている、ホワイトな運送会社はもちろん何も問題はない。
だがそうではない運送会社にとって、クリアするための選択肢は多くない。仕事を減らして、長時間労働を是正するか、長時間労働の原因となる自主荷役や長い荷待ちを不当に要求する荷主とは縁を切るか、それともコンプライアンス違反を受け入れて、いつか来るであろうトラック協会(実施機関)の巡回指導や運輸局の監査、そしてその先に控える行政処分等に怯えながら過ごすか…。
正攻法は、荷主に対してコンプライアンス違反につながる荷役、荷待ちなどの是正を申し入れた上で、運賃値上げ交渉を行い、待遇改善を実現することだが、これが難しい。運送会社は荷主に対し、立場が弱い。
これまでであれば、何か意見をしようものならば、「ウチの仕事に文句があるのかな? だったら辞めてもらって構わないよ。だって、運送会社はほかにもたくさんあるから」と言われるのがオチだった。
それでも、ドライバーの労働環境や、経営の健全化には、荷主の協力が欠かせない。なぜならば、運送会社は荷主の指示を受けて運送業務を遂行する立場であり、荷主の許しがなければ、たとえば配送時間指定の変更など、ささいな運送プロセスの改善すらできないからである。
だが「物流の2024年問題」が叫ばれ始めたことで、これまでの運送会社と、荷主とのパワーバランスが変わろうとしている。とは言え現実的には、これまでずっと続いてきた荷主vs運送会社の関係がそうそう簡単に変わるわけもない。
国が本気に、「トラックGメン」の役割とは
こうした事情があるからこそ、政府は国土交通省 運輸局内にトラックGメンという新組織を創設した。運送会社、あるいはコンプライアンスに対し、不埒な振る舞いを続ける荷主を摘発しようとしているのだ。
「国土交通省では2023年7月21日に『トラックGメン』を創設しました。当該『トラックGメン』による調査結果を貨物自動車運送事業法に基づく荷主企業・元請事業者への『働きかけ』『要請』等に活用し、実効性を確保します。『トラックGメン』の創設に当たっては、国土交通省の既定定員82人の既存リソースを最大限活用するとともに、新たに80人を緊急に増員し、合計162人の体制により業務を遂行します」
これが国土交通省Webサイトに掲載されている、
トラックGメンの概要である。ちなみに、「働きかけ」「要請」、そして「勧告・公表」については以下のように説明されている。
- 働きかけ
違反原因行為を荷主がしている疑いがあると認められる場合
- 要請
荷主が違反原因行為をしていることを疑う相当な理由がある場合
- 勧告・公表
要請してもなお改善されない場合
国土交通省によるトラックGメン創設の
プレスリリースには、「国土交通省では、適正な取引を阻害する行為を是正するため、貨物自動車運送事業法に基づき、荷主企業・元請事業者への『働きかけ』『要請』等を実施してきた」とあるが、実際に「働きかけ」「要請」を行った件数は、2019年7月から2023年7月20日までの4年間足らずで、なんと「働きかけ」85件、「要請」4件だけである。
対して、トラックGメンが発足した2023年7月以降から10月末までのわずか3カ月あまりで、「働きかけ」166件、「要請」6件を行ったという。
これまでの仕事っぷりがあまりにお粗末すぎた、という見方もできるが…。少なくともこれからは本気で取り組んでいく覚悟がこの数字からは見えてくる。
そこで筆者は、トラックGメンとして活動する方々にお話を伺うため、横浜市中区にある国土交通省 関東運輸局 自動車交通部 貨物課を訪ねた。
【次ページ】荷主からの「報復に怯える」運送会社
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