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  • 2022/07/14 掲載

円安加速も緩和策は継続、なぜ日銀は“今すぐ”政策修正に踏み切らないのか

【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」

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世界ではインフレが進行し中央銀行が金融引き締めに向かっているが、日銀は消費者物価上昇率が2%を超えてもなお金融緩和を続けている。こうしたことから、市場関係者の間では日銀の政策への批判的な見方が高まっている。たとえば、日銀が現状の金融緩和策を維持することにより、「日米金利差の拡大を通じて過度な円安を招き、それが日本経済に打撃を与える」といった声がある。また、「10年金利を0.25%以下に抑え込む政策は限界」との見方も広がっている。日銀の路線変更(引き締め)せざるを得ない将来を見越したヘッジファンドは国債売りを進めているが、日銀はいつまで現在の金融緩和を続けるのだろうか。
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ヘッジファンドによる大量国債売り…金融政策の先行きは
(出典:Getty Images)

広がる円安批判、日銀はどう対応するつもりか?

 各国の中央銀行が金融引き締めに向かう中、なぜ日銀は頑なに金融緩和策を維持するのだろうか。その理由を知るヒントは直近6月に開催された金融政策決定会合に隠されている。一部では、日銀の金融政策の変更が予想されていたものの、結果は現状維持であった。短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度に誘導するイールドカーブ・コントロール(YCC)政策に変更はなく、また政策指針を示す文言(フォワードガイダンス)の修正もなかった。

 一部エコノミストは、フォワードガイダンスから「または、それを下回る水準で推移することを想定している」の文言を削除することで、日米金利差の拡大観測に歯止めをかけるのではないかと予想していたが、将来的な利下げに含みを持たせる表現は残された。

新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇(ちゅうちょ)なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している

 また、6月会合で注目されていたのは日銀の為替認識である。もし日銀が最近の円安が日本経済に悪影響を及ぼすと考えているならば、円安を抑制し得る政策変更に踏み切るとの見方があった。ところが、実際に日銀がとった行動は、声明文のリスク要因を記載する段落に「為替」の2文字を記載するのみという塩対応であった。

金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある

 日銀に円安対策を求める声が相応にあったため、まったくのゼロ回答にならないよう、一定の配慮をみせたと見られる。マスコミ報道で円安批判が強まっていることから、黒田総裁を筆頭に日銀幹部(審議委員および理事)は「円安は日本経済にプラス」との見解を公の場で示すことはなくなったが、日銀内部の為替認識が大きく変化しているとは思えない。

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「簡単に政策修正はしない」日銀、なぜかたくなに現状維持を選ぶのか?
(Photo/Getty Images)

日銀は「簡単に政策修正はしない」と言える理由

 6月の金融政策決定会合で驚きだったのは11時43分という結果発表の早さであった。日銀は主要中銀とは異なり、金融政策決定会合の結果発表の時間を固定していない。通常、結果は12~13時の間に公表される。


 もっとも、政策変更がある時は議論が長引くことから公表時間が遅くなる傾向にある。そのため、たとえば13時になっても結果が伝わってこないと、市場関係者は政策変更を意識し、市場が「ざわつく」こともある。しかし今回、日銀が早い時間帯に結果を公表したのは、政策修正の議論すらなかったとのメッセージが含まれていたと思えて仕方がない。やや深読みが過ぎるかもしれないが、ここには日銀の「安易に政策修正はしない」という固い決意が込められていたように思える。長期金利の上昇圧力と“戦う”日銀の苦しい立場は今後も続くだろう。

 このように結果として金融政策の現状維持を決めたわけだが、決定会合の結果が出る前の市場動向を受け、一部では「日銀を屈服させる目的でヘッジファンドが国債売りを加速させている」との報道が広がっていた。この構図は「日銀 VS ヘッジファンド」として語られているが、はたして報道されている通りの構図なのか。ここからは、日銀とヘッジファンドそれぞれの思惑を整理したい。

【次ページ】日銀が今すぐは「金融引き締め」にかじを切れない理由
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