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2020年4月、政府は富士山が噴火した場合の降灰量予測を公表した。内容はすでに過去から公表されてきたものがアップデートされた程度であり、新型コロナウィルス騒ぎで外出自粛が開始された時期とも重なって、目立った報道はされなかった。しかし、やはり富士山噴火に伴う都市部への影響は無視できない。そこで本稿では、富士山降灰に伴う金融機能への影響について、とりわけ金融機能の要であるシステムセンターにフォーカスし、解説したい。
富士山噴火で都内でも降灰
このところ、日本では各地で火山活動が活発化している。そもそも、東日本大震災以降、国内外の研究者から国内における火山噴火リスクが増大する可能性について警鐘が鳴らされてきたのだが、それにしても気にせざるをえない状況である。
国内に存在する火山は数多いが、人口が集中する首都圏に最も脅威を与えるのは富士山だろう。富士山の最後の噴火は1707年までさかのぼる。このとき、当時の江戸では4~5センチの火山灰の降灰が記録されている。
2020年4月に政府が公表した富士山噴火時の降灰シミュレーションの結果は、次のようなものだ。
- 静岡県御殿場市付近では1時間に1センチから2センチ程度の灰が降り続き、最終的に降灰量は2メートル20センチに達する。
- 神奈川県横浜市では1時間に1ミリから2ミリ程度の灰が断続的に降り、最終的に10センチ程度に達する。
- 東京都新宿区では、噴火直後には降灰は見込まれない。ただし、噴火から13日目以降に1時間に最大1ミリの降灰が見込まれ、最終的に1.3センチほどに達する。
このシミュレーション結果は、天候や風向きなどによっても変化することから、あくまで参考にとどめるべきである。ただし、東京都ではかつて、富士山の噴火を想定のうえ、都内で1センチの降灰が観測された場合、火山灰の除去に4日程度を要すると公表してきた。
鹿児島のように、火山灰があたかも生活ゴミのように取り扱われ、日々、ゴミ収集車によって回収されるような環境であればともかく、都内で1センチの降灰があっただけでも大混乱だ。
なお、火山灰は水を含むとセメントのように固まり、そのままでは水に流れない。火山灰を洗い落とそうと水をかけても雪のようには溶けず、かえって処理に難渋するため、住民生活は混乱に陥ることが予想される。
「内燃機関」はすべて機能停止に陥る
火山灰は、自家用車、タクシー、バス、航空機といった外気吸入路にフィルターを有する内燃機関にも深刻な影響を与える。具体的には、その多くが運行停止を余儀なくされ、物流や人の移動に甚大な影響を与えることが予想されている。
鉄道についても、1ミリ程度の降灰で運行ができなくなるともいわれており、そもそも通勤自体が困難になるだろう。
なお、日々、桜島の噴火による降灰に見舞われている鹿児島では、鉄道には降灰対策が施されており、少々の降灰では停止しない。
ただし、これは特別の対策が車両やレールに施されているからこそであることを忘れてはならない(九州新幹線も降灰対策がなされている)。九州以外の国内各地では、ほぼ降灰対策はなされていないのが実態なのだ。
火力発電所の機能がマヒ
「5センチの降灰など高が知れている」といってバカにはできない。なにしろ、火力発電所の多くは、2~4センチ程度の降灰で機能停止に陥るとされているのだ。
現在、我が国で主流となっているガスタービンによる火力発電では、フィルターが火山灰によって目詰まりを起こしたり、タービンに取り込まれた火山灰がガラス化して内部に固着するなどし、発電能力を低下させることが懸念されている。
外部電力の供給が閉ざされた段階では、次善の策として自家発電装置の稼働に頼らざるをえない。たとえば、金融機関の勘定系システムが格納されているシステムセンターでは、外部電力がダウンした段階で、自家発電装置に切り替わることだろう。
ただし、同様に外気取り込み部のフィルターの性能問題が存在するかぎり、自家発電装置も設計どおりの稼働時間を確保できない可能性がある。
【次ページ】東日本大震災の例から検討するべきこととは