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前回までは、エンベデッドファイナンスの文脈における金融サービス仲介業の活用可能性や課題、金融サービス仲介業を巡る潮流(銀行、保険分野)について議論してきました。この回では、法的な観点から、金融サービス仲介業の活用の可能性や課題について、考察してみたいと思います。
データを利活用した金融商品の取り扱いの可否
第1回でも議論がありましたが、昨今、金融商品自体の差別化が難しくなっており、今後は、さまざまに色の異なるチャネルを持つ事業者と組み、それぞれの事業者の個性的な文脈に沿ってサービスを提供する、または事業者がデータ収集や情報分析などの金融業の機能の一部を肩代わりする動きが広がっていくように思われます。
たとえば、前者の動きとしては、セブン銀行が金融商品取引業者と提携して、顧客が店舗で購入した商品に関連した株式などを紹介し、当該株式などを1株から購入できるようなサービスを提供するといった動きが出てきています。
また、後者の動きとしては、これまでも何度か話題に上っていますがリクルートペイメントが顧客インターフェースを担う店舗向けのPOSレジのプラットフォーム(「Airレジ」など)を活用した融資商品を
検討していますし、ほかにも、テスラが運転者の属性情報のみならず、運転データなどを収集して算出されたスコアをベースに保険料を算出するいわゆる
テスラ保険の販売を開始しています。
金融機関から独立し、また、銀行・証券・保険すべてのサービスをワンストップ提供できる金融サービス仲介業者は、このトレンドに合致しているように思われます。
他方で、金融サービス仲介業は、商品設計が複雑でないものや日常生活に定着しているものなど、仲介にあたって高度な商品説明を要しないと考えられる金融サービスに限って取り扱いを認めることになっています。
そこで、以下では、金融サービス仲介業者が前述のような金融商品・サービスを取り扱うことができるか、以下の金融商品を具体例として解説いたします。
- 融資審査にAIを活用するビジネスローン(以下「AI融資」といいます)
- リアルタイムで収集されるデータ等を用いて保険料が算出される損害保険
(以下「テスラ的保険」といいます)
- 上場株式の単元未満株(以下「ミニ株」といいます)
・AI融資について
取り扱うことができない融資商品については、法令で規定されていますが、融資商品に関して申し上げると、基本的に、消費性カードローンでない限り、取り扱うことが可能です(金サ法<以下「法」といいます>第11条第2項第2号・同施行令第17条第2項)。
したがって、原則として、金融サービス仲介業者は、AI融資を取り扱うことが可能と考えます。
他方で、金融サービス仲介業者は、銀行代理業者も同様ですが、優越的地位の濫用・利益相反取引の防止の観点から、兼業規制があり、金融サービス仲介業以外の業務を営む場合、融資商品について追加で制限がかかります。具体的には、以下の表のとおりです。
たとえば、一般事業者が金融サービス仲介業者として融資商品の媒介をする場合、事業向け融資商品については、預金等担保貸付け及び規格化された貸付商品(ただし、上限1,000万円など一定の条件あり)のみ取り扱いが可能です。
規格化された貸付商品とは、資金需要者に関する財務情報、すなわち、財務諸表の各勘定項目等の資金需要者の財務に関連するデータで、融資担当者の裁量の働く余地がなく機械的処理のみにより貸付の可否及び貸付条件が設定されることがあらかじめ決められている貸付商品をいいます。
そして、AIなどにより財務情報の処理を行うことを否定するものではないと考えられていますので(令和3年6月2日付
パブリックコメントに対する金融庁の考え方22頁66番)、AI融資の具体的な商品設計にもよりますが、資金需要者に関する財務情報をAIにより機械的に処理し、当該処理結果のみにより、貸付の可否及び貸付条件が決まる融資商品であれば、規格化された貸付商品に該当すると考えられます。
したがって、一般事業者が金融サービス仲介業を兼業する場合であっても、金額の上限や与信審査に関与しないといった制約はあるものの、AI融資を取り扱う余地はあると思います。
・テスラ的保険について
取り扱うことができない保険商品については、法令で規定されており、たとえば、変額保険や外貨建て保険等の特定保険契約や再保険契約などは取り扱うことができません(法第11条第3項・同施行令第18条1号から6号)。また、それ以外の保険契約についても、保険金額及び保険期間について制限があり、損害保険について申し上げると、2,000万円を超える保険金の支払いを約する保険商品や保険期間が終身である保険商品は取り扱うことができません(同条第7号)。
したがって、保険金額及び保険期間については留意する必要があるものの、テスラ的保険を取り扱う余地はあると思います。
・ミニ株
取り扱うことができない金融商品については、法令で規定されており、株式について申し上げると、金融商品取引所等に上場されているもの又は金融商品取引所等が売買のため上場することを承認したものが取扱可能とされています(法第11条第4項第1号・同施行令第19条第1項第1号ロ)。
したがって、ミニ株であっても、対象銘柄が金融商品取引所などに上場されている場合には、取り扱うことは可能と思います。
【次ページ】実務上の課題(KYC)
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