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- 2023/03/13 掲載
金融庁が語る金融サービス仲介業を巡る潮流、組込型金融と顧客接点の関係
本音で語る組込型金融と金融サービス仲介業
そこで、この連載では、金融サービス仲介業がより普及されてしかるべき流れ、あるいはエコシステムや制度環境などの課題について、議論していきたいと考えています。
金融サービス仲介業は、金融サービスの提供のあり方について、金融機関が、顧客インターフェースを持つ企業の背後に回って、後ろから商品・サービスを提供する仕組みを念頭に置くものです。
今回は、こうした仕組みの一つとして、いわゆるエンべデットファイナンス(組込型金融)、それと事業者に対するインターフェースを持つ企業が金融サービスを提供する流れ、そして、それらに関連して金融業を巡るレイヤー構造に触れたいと思います。この構造は、組込型金融では、「ブランド」「ライセンスホルダー」「エネーブラー」といったレイヤーの区分に通じる話で、この「ブランド」のレイヤーに金融サービス仲介業が関係すると考えています。
本日は、「事業者の裏側を支える黒子である」と宣するGMOあおぞらネット銀行から細田暁貴執行役員、いわゆる組込型金融において「ブランド」と「ライセンスホルダー」をつなぐ「エネーブラー」の観点から業界の構造変化を見ているフィナテキスト伊藤 祐一郎取締役CFOに語ってもらいます。
事業者が「金融を組み込む」メリットは?
栗田氏:まず、一般消費者の経済活動のデジタル化が加速化する中で、特に日常生活に密着する分野において事業者は、オンラインの消費購買活動と金融をシームレスに結びつけなければ顧客はつかめない、とも言われています。少なくともオンライン上では、こうした顧客からの利便性への期待に応えていくことは必須とみていますが、さらに事業者からみて金融の利活用、つまり「金融を組み込む」メリットはどういったところにあるのでしょうか?
たとえば、ECプラットフォームのショッピファイ(Shopify)は、本業のEC基盤の中に決済機能を組みこむことで、決済サービスのShopPayの決済収益が大半を占めるまでに成長しました。
2022年には、加盟店向けに配送中の紛失などを補償する配送保険をサブスクプランに追加しました。これにより、加盟店はユーザーの配送トラブルを保険会社に補償してもらうことができ、ユーザーの顧客満足度の向上とともに、さらなる売上の増加を実現しています。
栗田氏:一般に決済手数料といった金融の役務収益で儲ける発想に安易に寄りがちですが、そうではなくて、強いて金融では儲けず、金融は本業の収益を上げるためのツールに過ぎないと考えるのですね。
こうした金融の利活用に向けた事業者の課題はどうでしょう?
細田氏:ユーザーがより良いサービスを選ぶのは当然の流れです。我々は金融機能を自社サービスに付加して利用価値や顧客体験をより良くしようとする事業者さまのご支援に努めています。
伊藤氏:「ビジネスフローをシステム化する伴走支援」はものすごくニーズがありますね。米国では、この領域に、ブロック(元スクエア)とか、ITに明るい若い会社が多く参入していますが、日本では、ITリテラシーが高い若い事業者層の参入は十分ではない。
その結果、当社でも、お客さまから事業企画からWebサイトの開発まですべてをご依頼いただくことが多いです。日本では、引き続き大手事業会社による参入が中心になることが見込まれるため、エネーブラーが提供するシステムの導入やカスタマイズの開発を支援する開発パートナーなどが増えてくると導入が早く進み、エコシステムとして広がっていくと期待しています。
栗田氏:私ども金融庁は、金融サービス仲介業の活用を促していくに当たり、本業と金融を組み合わせるビジネスモデルの考案が困難という点をよく聞きますが、加えて、金融と事業をシステムでつなぐところ、システム企業がレイヤーとして介在するイメージもありますが、そこにエコシステムでどう対応するか、が焦点ですね。
組込型金融は金融機関からどのようにみえている?
栗田氏:金融機関からはどう見えていますか? 金融機関は、事業者の顧客基盤やブランド力を活用できますが、それ以外にどういったメリットや課題があるのでしょうか。伊藤氏:少し時代を振り返ってみますと、1990年代後半から金融サービスのオンライン化が進み、ネット銀行やネット証券と呼ばれるプレイヤーが登場し、金融サービスの手数料は大きく低下しました。更に2010年代からは金融サービスのモバイル化が進み、いつでもどこでも使える利便性が高まりました。
この過程で、新しいデジタルサービスを支えるテクノロジーも進化したことで、どの金融機関も他社と同水準の機能や利便性を素早く開発できるようになりました。その結果、金融サービスは、手数料や機能といったものではもはや差別化ができない時代となったのです。そこで、金融機関は、よりマーケティングに費用をかけるようになっていきました。
その結果、広告合戦が過熱化し、顧客獲得単価が著しく上昇しました。現在は、この広告合戦からの脱却がテーマの1つになっています。
金融機関は、マーケティングを外の事業者に委ねて、顧客獲得単価を引き下げ、その分をユーザーに還元する、そうしないと顧客を掴めないというのが、恐らく金融業界全体の前提になりつつあるのだと思います。
細田氏:マーケティング単価が上がっていることは肌身で感じています。加えて、口座開設、預金、振込など機能だけを見ると金融商品自体はさほど差別化ができず、差別化できたとしても認知のためのマーケティングコストが必要で堂々巡りです。
我々としては、自らの銀行サービス、ソリューションに優位性を持たせるのと並行して、それを事業者がその先のエンドユーザーに提供できるようにすることにも注力をしています。
栗田氏:金融サービス自体の差別化が難しいのであれば、さらに一つ手前にさかのぼって顧客がなぜその金融サービスを欲するかに着目し、事業者の個性的な文脈に沿ってサービスを提供する、そういう方向に進んでいるとも言えそうですね。
伊藤氏:金融機関としては、事業者と組むことで、さまざまに色の異なるチャネルを持つことができ、そこでサービスとしての見せ方や、他のビジネスに合わせて提供できるロイヤリティープログラムなどで、全体として差別化が図られていくと思います。
他方、金融サービスや金融商品それ自体を無理やりこねくり回して差別化するのは、もう終わりでいいと思います。 【次ページ】事業者に対するインターフェースを持つ企業と金融業の分解
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