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  • 2023/07/07 掲載

5割が感じる“預金の不安”…56年ぶりにブチ上がった「米国版ゆうちょ」復活論とは

連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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日本で郵政民営化に伴うゆうちょ銀行の誕生から17年が経とうしている一方で、米国では今、56年前に廃止された郵便貯金の復活論が叫ばれている。シリコンバレー銀行(SVB)といった地域銀行の破綻が相次いだことにより、「公営で安全な郵便貯金を復活させよ」との声が上がっているのだ。これまでも公営銀行は議論の的とされていたが、今回の提言における新たな狙いが「政府によるフィンテック」として郵便貯金を復活させることだという。一体どういうことなのか。
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郵便貯金復活とフィンテックにはどう関係があるのか
(Photo/Shutterstock.com)

米国人の“5割”が感じる「預金の不安」

 米国では2023年3月以来、SVB、シグネチャー・バンク、そしてファースト・リパブリック銀行という中堅の3つの地方銀行が相次いで破綻した。しかし現段階では金融不安の広がりは抑えられている。金融の安定を優先する米連邦預金保険公社(FDIC)が、預金者の負担となるはずの預金損失を全額補償するなど、救済措置を図ったからだ。

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SVBなどの地方銀行の破綻で「米国版ゆうちょ」復活が期待されている
(出典元:gguy / Shutterstock.com)

 社会的な影響を勘案した結果だが、米国人からは「民間の金融機関にお金を預ければ損失を被るかもしれない」と改めて認識された。事実、預金者の多くが、(一般的に地方銀行より安全だと見られている)大手銀行にお金をシフトしたことが報告されている。

 だが、「つぶれにくい」とされる大手金融機関でも安泰とは言えない。米世論調査大手のギャラップは金融不安の続いていた4月に、およそ1000人の成人を対象とした調査を実施。その結果、「あなたが銀行やその他の金融機関に預金しているお金について心配ですか」という問いに対し、19%が「とても心配」、29%が「ある程度心配」と回答し、合計で48%の米国人が預金に不安を感じていることが判明した。

 こうした中、4月21日に米郵政公社職員労働組合(APWU)のマーク・ダイモンドスタイン委員長は米政治ニュースサイト「ザ・ヒル」に寄稿し、「SVBなどの破綻で引き起こされた金融危機は、銀行のシステムそのものが連邦政府の預金保険や、ローン保証・金利の設定に完全に依存していることを白日の下に晒した」と指摘した。

 民業と言えども、実は政府の「見えない大きな手のひらの上」で踊っているにすぎないというわけだ。ダイモンドスタイン氏はさらに、「政府はすでに銀行を下支えしているのだから、それをさらに拡充して、安全で手数料の安い銀行口座を国民に提供すべきだ」と踏み込んで主張した。

 理論上、政府は民間企業のように破綻しないので、国民に安定した金融サービスを提供できる。また営利目的でないことから、最低預金残高の縛りもなく、口座の残高が不足した場合の当座貸越手数料も請求されない。決済手数料も無料になるという。

 ダイモンドスタイン氏は、連邦政府がそのようなサービスを提供する最善の方法が、1911年から1967年まで55年間存在した郵便貯金を復活させることだと論じた。

なんと“590万世帯”が口座を持たない?

 かつての郵便貯金は1930年代に起きた世界恐慌という大波にも耐え、特に商業銀行の支店がまばらな地方や都市部の貧困地域において、簡易で頼りになる金融機関だった。しかし、商業銀行が提供する高利回りに対抗できず、1947年のピーク時を境に、徐々に郵便貯金の利用者は減っていた。そして、ジョンソン政権が1960年代に進めた政府合理化の対象となり、ついには1967年に廃止されたのである。

 廃止から半世紀を経た今、営利目的の金融機関を敬遠する低所得者層や地方の金融弱者が増加、これが社会問題化している。米連邦預金保険公社(FDIC)の2021年の調査によれば、米国の全世帯の4.5%に相当する590万世帯が金融機関の口座を持っていなかった。

 信用度が低く金融機関で口座を開設できない世帯は、小切手の現金化や給料前借りサービスといった余計な手数料の支払いに、世帯収入の10%近い2,412ドル(年間平均、約33.6万円)を費やしている。その上、こうした金融弱者を相手にしない銀行が放漫経営に手を染め、金融の安定をたびたび損ねることに関しても問題点の検証が深まり、郵便貯金復活などが議論されるようになったわけだ。

 だが、この郵便貯金復活の提言における真新しい狙いはほかにある。それが、デジタル口座やデジタルドルなどに絡んだ「政府によるフィンテック」として郵便貯金を復活させることだ。 【次ページ】「フィンテック×郵便貯金」の深すぎる意義
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