- 2025/01/20 掲載
トランプ復活政権「2.0」始動、日本の外交が生き残るための「3つの交渉原則」
「天下取り」を楽しむトランプ、商売人流の政治術
1987年に出版されたトランプの経営指南書である『トランプ自伝』(写真1)には、「取引」を成功させるための彼の11の「手札」が書かれている(表1)。トランプの交渉術の筆頭は「大きく考える」だ(表1)。これは、2016年大統領選に米国政治史上最高齢候補(当時70歳)、しかも公職経験皆無で出馬し、国のあり方はどこか間違っているから、変えるからには最高権力者として本気で実行に移すという、いささか誇大妄想的な側面である。
政治家は価値や原則を重視し、公益という“大きな価値”の実現を狙う。一方、商売人トランプは、“大きな商い”を「楽しむ」。目標は、天下取りの大ゲームに勝つことだ。情勢をにらみ、その時々の損得を判断基準とする。有利な取引のためには手段を選ばず、「最悪と最善のシナリオ」を想定し、効率的に目標達成するための方策に知恵を巡らし、緻密な計算をする。
トランプの交渉原則1:「データ重視」と計算、天才的な「市場勘」
トランプの「データ重視」は有名だ。2016年選挙では、有権者データと投票モデリングの専門家ケリーアン・コンウェイを選挙本部長に昇格させ、他方英国のデータ企業がひそかに収集した心理特性などの個人情報データをもとに、マイクロターゲットのピンポイント説得に成功した。2024年選挙では、従来は未開拓の“選挙に行かない”隠れ保守、若年男性、民主党離反層を抽出し、効率的に集票した。戸別訪問も外部支持団体に丸投げする常識外のやり方で、費用と時間を大幅に節約した。他方トランプは、天才的な「市場勘」の持ち主でもある。16年以降3回の大統領選で、選挙専門家や報道機関、政党すらも、白人中流層や低学歴層、労働者や男性、エリート民主党からの離反層が抱く不満、不安と怒りの強さを読み違えた。トランプは直接に顧客とやりとりし、隠れた要望を感知して、ともにWin-Winの取引に持ち込むダイレクトマーケティング、「直販」スタイルで成功した経営者である。
選挙でも同様に、選挙集会やSNSで感じ取る庶民の絶望的な熱気こそが、選挙を左右すると読んだのだろう。メッセージングも、ほかの候補が多様な支持層を束ねる政策パッケージのまとめに苦労する一方で、彼はターゲットを絞り、支持層の心をつかむストレートで単純なメッセージを8年間一貫して繰り返し、誰もが知るブランドとしての確固たる地位を築いた。
トランプの極端な言動やウソも、人格破綻というよりポーズ、周囲の反応から風向きを読み有効な手を導くための“観測気球”、情報戦術だとみなす支持者が多い(2024年10月The New York Times(NYT)の記事と調査)。誰もが知り得る既存の知恵に頼らず、その場その時の市場のありようを自分の肌感覚でつかむ。ワンマン経営者の成功の秘訣は、自分なりの風読みと計算、自らの勘を信じて大ばくちをうつ度胸である。
では、2月以降に予定されるトランプ大統領と石破首相の直接会談に向けた教訓は何か。 【次ページ】石破首相はトランプを攻略できる?
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