- 2025/01/20 掲載
トランプ復活政権「2.0」始動、日本の外交が生き残るための「3つの交渉原則」(2/3)
石破首相はトランプを攻略できる?
石破首相がこだわる「日米同盟の重要性」や「東アジア安全保障に対する米国の関与維持」といった原則は、確認にとどめ詳細に入らず、両者に共通する「大きな話」をすることだ。トランプの取引は事務折衝ではない。トランプと石破の共通点は、中央より地方の支持を権力基盤とし、非主流派としての周辺から中央を狙い続けた執念であり、国を大きく変える野望である。天下取りの物語と戦略は、日米首脳の個人的距離を縮め、“実”を狙う事務折衝を円滑に進めるお膳立てとなるだろう。
トランプの交渉原則2:強気の合理性とメディア戦略の融合
トランプの交渉の仕方は、強気かつ合理的である。「コスト」を抑え、相手にとって損得の大きい「付加価値」を見せつけ、それを「レバレッジ(テコ)」にして取引を優位に持ち込む。Win-Winの成果のスピーディーな実現にこだわり、「有言実行」を重視する。また、互恵的な取引関係は長く大事にする。他方、「友か敵か」を明確に区別し、敵への攻撃は執拗(しつよう)で容赦ない。トランプ政権の「有言実行」への強引なやり方は、政界常識はむろん、憲政の枠組みさえ逸脱しかねない。トランプは議会の頭越しに政策実現をはかる「大統領令(executive orders)」を異例のペースで連発し(注1)、また8年かけて共和党指導部や議員を「トランプ党」化した。連邦判事や最高裁判事の人事、トランプ裁判の無効化を通じて司法を掌握し、さらに「2.0」では、司法省など行政構造の大改造と職員交替、大統領の行政権限集中という「立法・司法・行政の三権支配」をもくろむ。
National Public Radio記事によると、トランプ大統領就任後100日間(2017)の大統領令発令件数は33件、クリントン以降の5政権で比較すると、バイデンの42件に次ぐ、2番目に速いペースだった。
またAmerican Presidency Project報告によると、トランプ第一期政権4年間の大統領令発令件数は、合計220件、年間平均55件。オバマは 二期8年間で276件、年間平均35件。G.W.ブッシュは二期8年間で291件、年間平均36件。クリントンは二期8年間で364件、年間平均46件。バイデンは4年未満だが、計155件、年間平均38件。年間平均件数で比較すると、トランプは5政権のうち最も多い。
もはや「大統領は何でもできる」。手始めは、大統領が決定権限をもつ通商、特に関税だ。安全保障の名目ながら、内実は財政赤字削減と減税公約の実現を急ぐトランプ財政政策の特効薬だからである。トランプは「就任初日(だけ)は独裁者になりたい」と放言して内外の批判を浴びたが、初日にとどまらず任期4年かけて「帝王的大統領制」への途を開くだろう。ゲームの到達点は、そうした存在としてのトランプ大統領の史的評価、レガシー作りである。
トランプは交渉相手にも、相応の権限と能力を求める。1つは、スピーディーなWin-Winの成果達成に不可欠な交渉相手の決定権限、資源としての権力集中や党支配、高い支持率やカリスマである。トランプの「独裁者好き」は有名だが、見方を変えれば、彼らは「何が欲しいか」が明確で、その場で決定する大きな権限と、実現に必要な政治的資源を掌握するので話が早いからである。
もう1つは、メディア露出の高さ、メッセージの強さ、拡散回路の多さなどの広報力だ。トランプ交渉術で注目すべき点は、「自分を宣伝する」ために使えるメディアは何でも使う、たたかれても「悪評は無名に勝る」というメディア露出重視である。トランプたたきは視聴率を上げ、報道Webサイトもそれを基準に構成される。SNS倫理規制で言論封じにあっても、保守派が構築したメディア縦断の代替情報回路網を通じて、広範な層に向けて発信共有できる。交渉相手の広報力が高いほど、宣伝効果は増す。良い例は、トランプとイーロン・マスクの「兄弟のような相棒(bromance)」だろう。権限と資源、広報力で世界最高レベルの釣り合いのとれた、最強の互恵関係だ(写真2)。
教訓は、強く明確な言葉で実現の意思を確信させるメッセージと、報道露出の最大化である。米大統領と個人的親交を深めた中曽根靖弘、小泉純一郎、安倍晋三首相などの“劇場型首相”たちは、それを熟知していた。また昨年4月岸田首相の米国議会演説では、平和には「覚悟が必要」、「(日本国民は)米国と共にある」が、米議員の大喝采を得た。米国政治は言葉の政治だ。明確な決意の表現は、「有限実行」の第一歩なのである。 【次ページ】トランプの交渉原則3:自己愛が強く、「ミウチ」関係を重視
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