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地域における金融サービスは環境の激変に伴い、その提供の方法をいかに変えるかが問われている。地域の中小事業者やプラットフォーマーの連携を探ったり、相性がいい地域金融機関内のデータを探ったりすることもその一例だ。本稿では地域金融機関とデータ、それらに関係する「金融サービス仲介業の生かし方」について、金融庁 総合政策局 金融サービス仲介業室 PR担当官の山根 瑠利子、URUU の代表取締役江上 広行氏、Finatex取締役CFO伊藤 祐一郎氏が議論を深めた。
執筆:金融庁 金融サービス仲介業室・電子決済等代行業室 監修:栗田 亮
執筆:金融庁 金融サービス仲介業室・電子決済等代行業室 監修:栗田 亮
地域金融機関の顧客がプラットフォーマー連携で奪われる?
山根氏: 「
金融サービス仲介業 としてのプラットフォーマー」との連携について、地域金融機関はどう受け止めているのでしょうか。
伊藤氏: 地域金融機関としては、限られたパイの奪い合いという意識が強く、デジタル連携してお金を貸すビジネスが台頭すれば、そのサービスに地元の中小企業も横串でつながって、自行ではなくても自身の顧客に貸せるようになってしまう懸念が絶対あると思います。
江上氏: 特に2Bにおいて対顧客チャネルを第三者に委ねると、自分たちが大事にしている顧客との対話の接点が失われて、既得権益が侵害されるような怖さがあると思います。
山根氏: 本当に顧客接点は奪われてしまうのでしょうか? たとえば、伊藤さんが
言及された 、非対面と対面を融合させていくとか、あるいは短期融資の顧客接点をプラットフォーマーに委ね、自らは長期融資を担うなど、うまい方法はないのでしょうか。
伊藤氏: 地域金融機関は、 デジタル=非対面ではアナログな顧客接点の場面がなく、金融機関に出番はないと思い込んでいるのではないでしょうか。実際には、そうはならないと思います。事業者としては「そうではない」というビジネスモデルをちゃんと描いて、説明することが、大事だと思います。
今まで見つけられなかった機会を見つけていくことを金融サービス仲介業者が担うのですが、結局最後は、金融機関が現場に行って工場をちゃんと見なきゃいけないとか、絶対に人が担うべき部分があると思います。地域金融機関とプラットフォーマーの連携においては、デジタルと対面を組み合わせるハイブリッドが生きるのです。
地域企業同士の連携の「論点」「障害」とは?
山根氏: 地域金融機関とプラットフォーマーの連携において、デジタルと対面のハイブリッド、つまり顧客接点での役割分担が必要だと理解している担当者もいると思いますが、実際の連携はまだまだこれからです。何が障害になっているのでしょうか?
江上氏: いわば「自前主義」に拘る心理的な抵抗が邪魔しているのかもしれません。地域金融機関は自身の強みがさほどない領域に対してさえ、「過度な自前主義」に陥っている印象があります。
その背景には、能力があることこそがバンカーのアイデンティティになってしまっている影響があると考えています。「バンカー」は、コンサルティングやアドバイス能力を高めて「顧客の先生」として顧客を指導することに躍起になります。
テクノロジーを活用したオープンな連携が普及していく中でも、多くの金融機関は外部連携に消極的です。自前主義を貫いて、誰かより能力が高いポジションを守り続けることにどうしても執着してしまうのではないでしょうか。
本来、地域金融機関にとって強みとすべきは、これまで長い歴史を経て、地域の顧客との間で築いてきた強固な信頼とそれにより獲得したデータではないでしょうか。これだけ関係性とデータを持っている金融機関てほぼないんですよね。この関係性とデータは行政で持ちえないものです。しかも口座情報を含む顧客プロファイルを持っているので、「誰それを知っている、紹介できる」という強みがある。
けれど、本業で稼げない不安から、不得意な領域にまで手を出しつつビジネス展開しているように見えます。得意のパートナーと組めばよいのに、つい自分でやりたがる。
山根氏: 今度は、事業者からみて地域金融機関との連携における課題はどこにあるのでしょうか。
伊藤氏: システムの連携に課題があります。金融機関側からは、既存の業務フローに合わせてほしいというご要望をいただくことが多いです。伝統的な支店における業務処理が中心で、どうしてもそうした業務処理から離れたフローの設計に抵抗感があるのだと思いますが、ITとか事業者側としては、それがきついんですよね。
IT側は、たとえば1つのサービスで、プラットフォームとして色々な金融機関とつながって、薄く広く取っていければいいと思ってビジネスをつくろうとしているので、1社1社違った対応が必要になると、コストでビジネスが成り立たなくなってしまう。
それこそ金融機関の自前主義にも関連しますが、システムが個別最適化され過ぎて、硬直化してしまっているため、業務フローを少し変えるだけでも非常に多くの時間とコストがかかってしまうことが問題だと思います。連携を重視するなら、業務にシステムを合わせるのではなく、システムに業務を合わせること(Fit to Standard)も検討する必要があります。
江上氏: システムを安定稼働させることを使命とする金融機関がリスクと変化を嫌うという、古くて新しい問題の結果ですね。
【次ページ】地域金融機関の「データ開放」が難しい2つの理由
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