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- 2023/02/22 掲載
YCC修正は誰が総裁であろうと「いきなり」日銀黒田氏任期満了前の今に注意すべき訳
【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」
まったくの予想外であった次期日銀総裁人事
政府は植田和男元日銀審議委員を次期日銀総裁に指名する人事を固めた。筆者にとってまったくの予想外であったが、学者で金融政策に精通している同氏の政策スタンスに安心感を抱く市場関係者は多いだろう。また、金融政策の実務に精通している内田真一日銀理事、金融システムに詳しい氷見野良三前金融庁長官を副総裁とする人事案についても「強力な布陣」と評価する声が多く、筆者も同感である。
なお、植田氏は2022年7月の日経新聞への寄稿で「多くの人の予想を超えて長期化した異例の金融緩和枠組みの今後については、どこかで真剣な検討が必要だろう」としつつも、2月10日には「金融政策は景気と物価の現状と見通しにもとづいて運営しなければいけない。そうした観点から、現在の日本銀行の政策は適切であると思う。現状では金融緩和の継続が必要であると考えている」として現実路線の考えを示している。
現金給与総額が急増でYCC終了間近か
筆者は日銀の金融政策について雨宮氏、中曽氏の総裁就任を前提に「現在のYCC(イールドカーブコントロール)を年央に終了」との予想を示してきた(10年金利操作の終了)。植田氏の政策スタンスについてはいまだ判然としない部分があり、所信表明や初回の金融政策決定会合まで不透明感は残存するが、それでも賃金上昇を伴った物価上昇が実現している状況に鑑みれば、植田氏がYCCの終了に着手する可能性は高いと判断している。その点、2月7日に公表された12月毎月勤労統計は、「日銀が年央までに現在のYCCを終了する」との筆者予想を支持する結果であった。現金給与総額は前年比プラス4.8%と急増。特別給与がプラス7.6%とやや大きめの伸びを示したことが一因だが、所定外給与(≒残業代)がプラス2.9%と底堅く推移する中、最重要項目の所定内給与(≒基本給)がプラス1.8%へと伸びを高めたことが強く効いた。
所定内給与は2020―21年に停滞した反動によって前年比伸び率が誇張されていること、確報で下方修正される可能性があること、そして物価上昇を加味した実質賃金がマイナスであること、これらに注意が必要だが人手不足が深刻になる下で、企業経営者が労働力確保のため、固定費である基本給の引き上げに対して寛容になっている様子がうかがえる。
最近の賃上げ報道などから判断すると2023年度入り後の賃金動向は、3月中旬とされる春闘の結果判明を待たずして、ある程度の期待が持てる状況になってきた。これは日銀も同じ感覚ではないか。 【次ページ】今後の行方は? メインシナリオ・サプライズシナリオを解説
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