【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」
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年末の金融政策決定会合にて緩和修正に踏み切った日銀だったが、直近の会合では政策を据え置くことを決定した。緩和修正に踏み切ると予想していた市場参加者も多かっただけに、意外感は大きかった。今後緩和修正に踏み切るとすれば時期はいつになるのだろうか。大きなカギを握る賃金上昇率の動向とともに解説する。
共担オペ拡充、金融機関に低利で国債購入を促す意図
日銀は1月17、18日に開催された金融政策決定会合でイールドカーブ・コントロール(以下、YCC)を軸とする現在の金融政策の枠組みを維持することを決定した。短期金利の誘導目標はマイナス0.1%、長期金利(10年金利)のそれは「0%程度(プラスマイナス0.5%)」で変更がなかった。
もっとも、長期金利を押さえ込むための手段として「共通担保資金供給オペレーション(以下、共担オペ)」の拡充が決定された。長期金利誘導目標の上限幅を0.25%から0.50%へと拡大し、事実上の利上げを実施した2022年12月の金融政策決定会合以降、国債市場で追加の政策修正が意識され、長期金利に上昇圧力がかかっていたことを受けての措置である。
共担オペは日銀が適格と認めた国債等の担保を日銀に差し出すことで日銀が金融機関(≒銀行)に対して低利で資金供給を実施するというもの。金融機関に国債購入を促す意図がある。従来オペの貸出期間は1~2週間、最長でも2年(1月4日実施)であったが、今回の変更により(固定金利方式、金利入札方式ともに)最長10年とされた。
声明文公表と同時に、1月23日に期間5年の共保オペを実施すると発表し、それを受けて長期金利は大幅に低下した。日銀の狙いどおりになれば、(取引コスト等考慮後の国債利回りよりも)低利で調達された資金が国債購入に向かい5年以下の国債金利に強い下押しをかけることが期待される。
「物価上昇は一時的の可能性が高い」緩和修正観測を一蹴
また日銀は「経済・物価情勢の展望(以下、展望レポート)」にて、低めの物価見通しを示すことを通じて長期金利を下押しした。事前の報道では2022年度に加えて、2023年度を2%程度(従来プラス1.6%)に上方修正し、24年度もプラス1.6%から引き上げられるとされていた。しかし、実際に示された見通しは下表のとおり前回見通し(2022年10月)からほとんど変化せず、2023年度はプラス1.6%で据え置き、2024年度もプラス1.8%と小幅な上方修正にとどまった。
筆者を含む市場関係者にとって驚きだったのは2023年度のプラス1.6%という控えめな数値。昨今の相次ぐ値上げ報道などから判断すれば、上方修正の可能性が高いとみていたが、日銀は「物価上昇は一時的の可能性が高い、直ちに金融政策を修正する必要はない」という認識を固持し、金融市場で燻(くす)ぶる緩和修正観測をつぶしにかかった。日銀がインフレ見通しを引き上げると同時に緩和修正に踏み切るという警戒を抱いていた市場参加者も多かっただけに、意外感は大きかった。
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