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近年、EV(電気自動車)メーカーの米テスラや中国BYDの台頭により、日本の自動車メーカーの存在感が薄れてきている。電動化が勝敗を分けるポイントになりつつある中、日本企業はこのまま淘汰されてしまうのか。F1をはじめ、モータースポーツのトップ選手・監督として、あらゆるマシンに触れてきた片山右京氏に、日本企業のモノづくりの良い点・悪い点を率直に答えてもらった。
執筆:鈴木健一 (鈴木ケンイチ)、編集:中澤智弥、写真:濱谷幸江
執筆:鈴木健一 (鈴木ケンイチ)、編集:中澤智弥、写真:濱谷幸江
電動化の波は避けられない、ガソリン車は完全に消えるのか?
自動車の電動化や脱炭素のようなトレンドは不可逆であり、あらゆるモノづくりが燃費効率や経済合理性を追求するようになることは当然の流れなのだと思います。
そうした中で、EVに比べれば環境負荷の高いF1のようなモータースポーツに対する視線は年々厳しさを増しているように感じます。それでも、「ストリーミング再生よりもレコードで音楽を聴くほうが好き」という人がいるように、「ガソリン車が好き」という人は一定数残り続けると思います。このように、経済合理性とは関係なく、人の心の琴線に触れるような、人の欲求に結びついたモノづくりは、これからも文化として残り続けていくのではないかと思います。
だからこそ、どこまで行っても、モータースポーツはなくなりません。人が人であるかぎり、競争をやめることはありませんし、1番という称号を得たいという欲求はなくなりません。そして、「スピードを出しすぎると危険かもしれない」という緊張感の中でしか感じることができない興奮と集中力のような感覚は、おそらく人間のDNAに刻まれているはずです。
ただし、競技の中で使用される燃料は変化していくかもしれません。F1にはバイオ燃料が使われるようになるかもしれないし、水素化されるかもしれない。世の中全体で見れば、レースで使われている燃料は微々たるものですから、「F1を運営するにあたって年間に必要な燃料がタンクローリーたった1台分だけというのであれば…どうぞ、ガソリン車で競技を続けてください」と世間の見方が変わるかもしれません。
まだ日本企業は世界と戦える? “日本製”の実力とは
このように環境が激変する中、日本のモノづくりはどうかと言えば、それほど安心できる状況ではないかもしれません。
日本のモノづくりを特徴付ける要素として、もちろん国民性などもありますが、それ以上に、国の方針や政策の影響は大きいのではないでしょうか。特に、日本企業は国の指針ありきで動く傾向がありますから。
たとえば、少し前の日本企業には、人件費を抑えるために生産拠点を海外にどんどん移していく流れがありました。その際、「技術が流出してしまう」とか、色々な意見が出ていましたよね。そうやって、国としても企業としても合理性を追求してきた結果、日本企業の賃金が高くなったかといえば、そんなことはありませんよね。
米国のブルーカラーの知り合いと話したときに、「いやあ、私たちのような下層階級は、ぜんぜん給料をもらってないよ」と話すので、どれほどもらっているのかと聞くと「だいたい年収1,300万円くらいかな」というのです。それを聞いたら、今の日本人はひっくり返っちゃいますよね。もちろん、物価を考えれば、とんでもない差というわけではないかもしれませんが、それでも日本はやはりアンバランスだと思います。
技術力自体は海外と比べても高いと言いたいし、国民性とか文化といった土壌を考えたら、絶対に技術はあると思うんですよ。たとえば、宮大工とか、日本の伝統芸とかね。
ただ、そういった小さなものづくりが大事にされていない状況があり、その結果、市場としてシュリンクしていき、残ったとしてもそれは本当にニッチな産業となる。そうなると、企業だって生き残る必要がありますから、コストを下げるために大量にモノを作らなきゃいけないという考えになって、個性がどうしても消えざるをえなくなっていく。
その結果、もしかしたら“日本ならではの特徴”を備えていたかもしれないモノづくりが消えてしまうことになります。全体最適と、日本製の強みになるモノづくりの保護のバランスは非常に難しい問題だと思います。
【次ページ】製造業復活のヒントは「Jリーグ」と「F1」にある理由
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