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ロシアのウクライナ侵攻を契機に、暗号資産が「ウクライナ支援の緊急手段」「ロシア人による金融制裁の回避手段」として利用されていることがクローズアップされている。どちらも、暗号資産の即時性や匿名性という特徴を利用したものだ。この両国の暗号資産戦が、現在各国で進行中の暗号資産の規制強化や欧米を中心としたロシアへの経済制裁と併せて、暗号資産を取引する人にとっての興味深いケーススタディーとなっている。この「戦場」で勝利するのはロシアかウクライナか分析するとともに、ここで得られる投資の教訓を考える。
プーチン大統領も暗号資産の普及を後押し
今回の戦争では、仕掛けた側のロシアも巻き込まれた側のウクライナも、多大な額に上る戦費をはじめ、できるだけ早くより多くのお金を必要としている。送金や決済が瞬時に済み、ある程度の匿名性もある暗号資産は両国とも注目するところだ。
シンガポールの暗号資産決済企業であるTripleAによれば、ロシアではその人口の約12%に相当する1700万人が暗号資産を保有する一方、ウクライナにおいては人口比で13%に近い550万人が暗号資産を持っている。普及率に関しては、両国ともほぼ同じレベルである。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2021年10月の米経済専門局CNBCのインタビューで、「ロシアの原油やガスなどのエネルギー取引では、(米ドルやユーロなど)従来の決済貨幣を使用する必要がある。エネルギー資源を取引する時に、暗号資産を使うのは時期尚早だ」としつつも、「資金を各所に送金するために暗号資産を使用することは可能だ。暗号資産には価値がある」とも語っている。プーチン氏は、暗号資産への理解が深い。
しかし、こうした大統領の考えにもかかわらず、ロシア中央銀行は2022年1月時点で、中国と同様に暗号資産を禁止するよう提案していた。ところが、ウクライナ侵攻の数日前、プーチン大統領の意を体したロシア政府が「暗号資産の成長を促す新規則」を発表。西側の金融制裁を見越した上で、選択肢をできるだけ多く残しておきたい意図があったようだ。
事実、米金融大手JPモルガンによれば、侵攻開始当日の2月24日時点で、ルーブル建てで取引されたビットコインの総額は15億ルーブル(約18億円)と、2021年5月以来の最高レベルに達した。価値が米ドルに連動しているステーブルコイン(価格安定性の高い暗号資産)のテザーと、ルーブルの間でも慌ただしい取引が繰り返された。
ウクライナは「法整備」で時代を先取り
一方のウクライナは、政治の腐敗もあって2019年までインフレ率が2桁台と高く、通貨フリヴニャ(フリブナ)の対米ドル価値も下がり続けるため、市民が自己防衛手段として暗号資産を購入するケースが多かったとされる。
さらに、原子力発電による安い電気がウクライナの電力構成で半分以上を占めることも大きい。暗号資産は電力消費量が大きいことから、電気料金の安さが暗号資産のマイニング(採掘)を盛んにしたとされる。こうした背景から、米『ニューヨーク・タイムズ』紙は2021年11月の記事で、「ウクライナは世界の暗号資産の首都だ」と評していた。
また、ロシアの侵攻を目前にしていた今年2月17日には、ウクライナ議会が暗号資産を法定貨幣に指定する法案を可決したほか、中央銀行デジタル通貨(CBDC)であるデジタルフリヴニャを新規発行する予定も前進した。
同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月18日に、この法案に署名。暗号資産取引所が政府に金融商品取引業者として登録することで、暗号資産を切望されているフィアット通貨に変換できる法的枠組みが確立された。
特に、暗号資産全体の時価総額が昨年11月のピークから今年1月下旬に半減したという不安定な環境の中でも、これらの措置が推進されたことに注目したい。法整備の面では、来たる戦争に備えてDX(デジタルトランスフォーメーション)を取り入れたウクライナがロシアよりも進んでいたことになる。そして開戦後はロシア同様に、フリヴニャ建ての暗号資産取引が急増している。
では戦争という実際の有事に際して、暗号資産はその強みを発揮できたのだろうか。まずは、ロシアのケースを分析してみよう。
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