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経済産業省がこの10月に開催した「TCFDサミット2021」は、気候変動問題に関する企業の情報開示の枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に取り組む金融機関などのリーダーが集結するなど、注目される取り組みだ。この記事では、TCFDサミットともに金融安定理事会(FSB)が設置したTCFDコンソーシアムが発表した、「グリーン投資の促進に向けた気候関連情報活用ガイダンス2.0(グリーン投資ガイダンス2.0)」について解説する。
「グリーン投資ガイダンス2.0」とは何か?
「グリーン投資の促進に向けた気候関連情報活用ガイダンス2.0」(以下、グリーン投資ガイダンス2.0)とは、経済産業省が設立に携わったTCFDコンソーシアムが2019年10月に作成した「グリーン投資の促進に向けた気候関連情報活用ガイダンス(グリーン投資ガイダンス)」の改訂版にあたる投資家向け資料だ。
グリーン投資ガイダンス2.0は、投資家などが企業が開示する公開情報を基に投融資を判断する際に活用することを想定、初版公表以降の重要な進展を反映し、投資家などが開示情報を読み解く際の視点に触れるとともに、新たに重要なトピックを「補論」として解説している。
グリーン投資ガイダンス2.0は、その基本的な考え方として「企業価値向上につながる建設的な対話(エンゲージメント)の促進」「気候変動に関するリスクと機会の把握および評価」「脱炭素化に向けたイノベーションの促進と適切な資金循環の仕組みの構築」の3つを挙げている。また、上記3項目の達成によって「環境と成長の好循環の実現」を目指すという。
「グリーン投資ガイダンス2.0」の発行経緯とは
改めて、「グリーン投資ガイダンス2.0」の発行経緯を振り返っておこう。世界の平均気温が上昇している中、金融業界では、この気候変動が投融資先の事業活動に与える影響を評価する動きが広まってきた。
G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)により設置された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)では、気候関連の情報開示および金融機関の対応をどのように実施するかが検討されている。
日本では、経済産業省が2018年12月に「気候関連財務情報開示に関するガイダンス(TCFD ガイダンス)」を公表し、TCFD提言への対応に向けた機運が高まっていた。
その後、2019年5月に前述のTCFDコンソーシアムが設立され、このコンソーシアムから2019年10月に「グリーン投資の促進に向けた気候関連情報活用ガイダンス(グリーン投資ガイダンス)」が発表された。
「グリーン投資ガイダンス2.0」のポイントとは
「グリーン投資ガイダンス2.0」では、初版公開時点の2019年10月以降の約2年間で起こった3つの主要な進展を踏まえている。
1つ目が「社会的課題の進展」だ。カーボンニュートラルの達成が多くの国、企業の目標となりつつある。その達成には、大規模な移行(トランジション)、大幅な技術進歩(イノベーション)が必要となることを受けて、エンゲージメントの重要性が一層高まっていることが考えられる。
続いて2つ目が「金融行動の進展」である。間接金融を含む投資家などの投融資ポートフォリオの排出削減を掲げる動きが活発化する中、長期にわたるエンゲージメントを通じて、投融資先の気候変動対応を促すことが求められつつある。
最後3つ目が「開示の進展」だ。コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂などによる開示企業の急増や、インターナル・カーボンプライシングの活用、GHGプロトコルにおける「スコープ3」の重要性の高まりなどを通じて、開示内容が進展。それに伴い、投資家などは企業活動に対する重要性(マテリアリティ)の考慮も求められるようになっているのだ。
GHGプロトコルは、温室効果ガス(Greenhouse Gas=GHG)排出量の算定と報告に関する国際的な基準だ。
自社工場での燃料燃焼で排出される「スコープ1」(直接排出量)、オフィスで使用する電気の発電時に排出される「スコープ2」(間接排出量)に対して、「スコープ3」とは、原材料の調達や販売後の製品の使用など海外も含めた事業のバリューチェーン全体で出る排出量を指す。サプライチェーン全体での「スコープ3」の情報開示の重要性が高まっている。
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