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- 2021/09/21 掲載
「グリーンAI」を使うべき理由、人工知能とサステナビリティの関係とは
サステナビリティ向上のカギを握るAI
2021年8月21日、「標高3000m超のグリーンランド山頂で史上初の降雨を観測」というショッキングなニュースが世界を駆け巡りました。通常は気温0度を下回ることがない場所において、実に9時間にわたって0度を上回ったのです。このように、CO2など温室効果ガスの急増による地球温暖化の脅威はすでに現実のものであり、すべての企業はその活動において可能な限りのあらゆる対応を求められる時代になりました。消費者や規制当局、投資家といったさまざまな立場から、業界を問わず企業の気候変動への影響力がますます厳しくチェックされるようになっています。
この状況を改善するためには、やはりテクノロジーの活用が欠かせないでしょう。1つは、人工知能(AI)の活用です。AIは、企業のCO2排出量削減やコスト削減に貢献するという点で、すでにその価値が認められ、積極的に活用され始めています。
では、AIはどのように企業のサステナビリティ向上に活用されているのでしょうか。企業活動において多量のCO2が排出される生産活動、たとえば製造業において、工場の生産過程における工程数の低減や工程ごとの時間短縮にAIが活用されています。
生産した製品を輸送・配送する過程においても、最もエネルギー効率が高い経路の算出や、在庫を配置する拠点の算出などにもAIが多用されています。さらに、デジタルツインと呼ばれる、IoTやAI、AR/MRなどの技術を用いて仮想的に物理環境を構築し、シミュレーションを行う手法も採用が広がっています。
さらに、自社のサプライチェーンにおけるCO2排出量のモニタリングにもAIは欠かせません。材料や部品のサプライヤー、輸送業者、さらには自社製品の川下ユーザーなど、バリューチェーンのすべての領域からデータを収集し、不足するデータをAIによる推論で補いながら排出量の近似値を推定します。
このように、ここ数年でAIは、これまでの効率化によるコスト削減という観点よりも、いかにCO2排出量を把握し減らすかという用途でもAIが用いられるように変化してきました。
AI動かすエネルギー増大にどう対応するのか
前述のように、CO2排出量の低減、把握を含む企業活動のあらゆるAIの活用がなされる一方で、「AIを動かすこと」自体の必要エネルギー増大もまた、課題に挙げられるようになりました。AIをベースとするシステムは、大量のデータを処理しなければならないため、多量のプロセッサーを稼働する電力とデータセンターを冷却するための電力に対する依存度が高まります。したがって、企業内でAIを導入すると、企業のエネルギー使用量が増加し、結果的にCO2排出量が増大することになります。
2019年にマサチューセッツ大学の研究者は、最先端の自然言語処理アルゴリズムを学習させて人間のようなテキストを作成するのに必要なエネルギーについて、「米国での自動車生涯排出量の5倍」「サンフランシスコ・ニューヨーク間の往復航空券300回分」に相当する二酸化炭素が発生するという研究結果を発表しました。
実際、極めて優秀な自然言語テキスト生成モデルである「GPT-3」のトレーニング処理において必要とされるコンピューティングリソースの規模は増すばかりです。GPT-3の研究で用いられたパラメータ数は1750億個となり、これは前身のGPT-2の100倍の規模となっています。次バージョンのGPT-4では、さらに100倍以上ものパラメータ数が用いられるという指摘もあります。
AI、特に機械学習とディープラーニングのエネルギー消費の上昇(とそれに伴うCO2排出量の上昇)は、環境負荷低減の観点から無視できなくなっています。ディープラーニングの研究に必要とされる計算量は、数カ月ごとに倍増しているとも言われます。これは、モデルの学習に使用するデータセットのサイズが増大し続けていることに起因しています。
【次ページ】グリーンAIとは何か? AI動かすエネルギー増大に対応する方法とは
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