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近年、世界でPE(プライベートエクイティ)ファンドやVC(ベンチャーキャピタル)などの低流動性資産への投資が増加傾向にある。背景には、いわゆる伝統的資産(国内外の株式・債券)への投資だけでは、十分な収益をあげることが難しくなってきたことが関係している。伝統的資産に比べ、比較的高いリターンが期待できる低流動性資産は、機関投資家にとって魅力的な投資対象となっているようだ。とはいえ、流動性が低いなどの特徴を持つ低流動資産への投資には、注意すべき点が多い。そこで今回、低流動資産への投資のポイントについて、あいざわアセットマネジメント 代表取締役社長の白木信一郎氏に解説してもらった。
注目を集める低流動資産(PE、VC、不動産、インフラ)
国内の株式・債券や海外の株式・債券など、いわゆる伝統的資産と呼ばれるこれらの資産は、取引所に上場していることから、さまざまな投資家によって活発に取引される“流動性の高い投資対象”と言えます。
一方、上場していない未公開企業の株式を対象とするプライベートエクイティ(以下、PE)投資や、未公開ベンチャーの株式を対象とするベンチャーキャピタル(以下、VC)投資は、伝統的資産に比べて売買しにくい“流動性の低い投資対象”と言えます。また、不動産や、公共インフラなどへの投資も、同じく低流動性資産に該当します。
このうち特に注目を集めているのが「PEファンド」への投資です。
PEファンドは、企業のライフサイクルに合わせていくつかの種類に分類することができます。たとえば、創業期に当たる投資がVCと呼ばれるもので、スタートアップなどイノベイティブな企業に対して投資が行われるのです。成長期の企業への投資は「グロースキャピタル」、成熟期の企業へ投資を行い企業価値を向上させた後に売却する「バイアウト」、財務危機などに陥る後退期の企業に投資を行い事業再生・企業価値向上後に売却して収益を上げるのが「ディストレスト」と呼ばれる投資になります。
これらの中で、もっとも大きなボリュームを占めているのがバイアウト型です。
たとえば、投資が盛んな米国はどうでしょうか。1980~90年代の米国におけるバイアウトは、敵対的買収がほとんどでした。しかし、人員削減や会社解体などの強引な手法に対する社会的な反発が、投資する側からするとコスト的にも見合わないため、敵対的買収は減少し、現在は友好的買収が主流となっています。
日本でも10年ほど遅れて同じような波が到来。2000年代中盤からはユニコーン企業が数多く登場して、フレンドリーな買収が一般化しました。
近年では、2018年に米投資ファンド、ベインキャピタルを軸とする企業連合に約2兆円で売却された東芝メモリなど、ここ数年案件の大規模化が進行しています。バイアウト案件の大規模化に伴い、ファンド自体の募集金額の大規模化も進行しています。PEファンドだけでなく、VCのサイズも大きくなったのです。
PEファンドに投資が集まる理由
実際に、どれほどPEファンドに投資が集まっているのでしょうか。これは、企業価値が割安か割高かを確認するために使われる「EV/EBIT倍率」と呼ばれる指標で確認すると、どれほど加熱しているかが見えてきます。
なお、EV/EBIT倍率は、企業をある価格で買った場合に、その企業を何年持ち続ければ投資を回収できるかを表し、「被買収企業の事業価値(EV:株式時価総額+有利子負債-現預金)÷被買収企業の収益力(EBIT:営業利益)」で算出できます。
2008年の金融危機直後の2009年にはEV/EBIT倍率の数値は6倍程度まで落ち込みました。しかし2018年に約11倍に回復し、2021年度に入ってから10~15倍程度と、割高傾向にあります。
考えられる要因としては、世界的な金余りの状況が考えられます。投資機会に対して需要が殺到し、価格が上昇しています。また、上場企業の株価全体も含め、全体的に株価は上昇傾向にあるため、これがPE業界においても同じことが起きていると言えます。
また、テクノロジーを活用したユニコーン企業が増えていることや、SaaSの登場などにより、売上が成長しつづけていくことを予見できるビジネスモデルが数多く登場しました。投資対象が増えたことで買収対象の企業の高額化を正当化する理由ができたことも、大規模化・高額化の要因につながっている部分もあります。
PEファンド投資のメリット
機関投資家にとって、PEファンドに投資をするメリットは、高いパフォーマンスにあります。低流動性資産投資の中でも、PEファンドは歴史的にも確立された手法として認められており、過去のトラックレコードを見ると、高いパフォーマンスを発揮して高い収益率を上げてきた実績があります。
また、PEファンドなどの低流動性資産への投資は「オルタナティブ投資」と呼ばれ、株式や債券とは異なる源泉を持つ資産であるため、投資によりポートフォリオの分散効果が期待できます。市場の短期的なアップダウンの影響を受けにくい特徴があるからです。これにより、投資のリターンが安定する効果を期待できます。
なお、PEファンドに投資する投資家の中には、銀行などの金融機関がPEファンドに対して政策的な投資を行うケースもあります。たとえば、バイアウトファンドの場合は、投資においてレバレッジをかけるため、その元手となる資金を銀行から借りる必要があります。銀行は、こうしたファンドへの融資の機会を獲得するために、営業活動の一環としてPEファンドへ投資するケースがあります。
PEファンドの投資家になることで、事業承継やM&Aの関連事業への関わりを持つことにもつながるでしょう。これが、アドバイザリー業務や紹介業務、案件の紹介などにつながり、結果として金融機関の資金収益を押し上げることになる場合があります。
また、PEファンドへの投資が、金融機関にとっては情報収集という目的であるケースもあります。PEファンドへの投資を通じて自分たちの知らない世界を知ることにより、事業領域を広げていく素地を作ることができるのです。金融機関は80年代から積極的に海外のファンドに投資してきた流れがあります。
金融機関や生損保によるVCへの投資も、DXへの足がかりを作るという側面を持っています。フィンテックやヘルステック、インシュアテックといった文脈も踏まえて、VCが発掘してきたスタートアップや新興企業に対して投資することで新興企業に関わりを持つことも目的に含まれるのです。
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