0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
ここ数年で保険会社を取り巻く環境は大きく変化してきている。IT技術の進化、国内外の企業による異業種からの保険業界への参入の増加、規制緩和などによって競争が激化しつつあるのだ。保険会社が生き残っていく上で大きな鍵を握っているのが、DXの推進である。今後、保険会社が実現すべき戦略的DXとはどのようなものか。アクセンチュアビジネスコンサルティング本部のシニア・マネジャーである三橋和利氏と久松達典氏に話を聞いた。
異業種からの参入で競争激化、保険会社はどうすべきか?
近年、さまざまな業界から保険業界への参入が進んでいます。たとえば、アルファベット(グーグルの親会社)の子会社Verilyが2020年に保険会社Coefficientを設立し、保険商品の提供を開始しました。また、アマゾンが自社社員に提供していた医療保険プランを他社の雇用者への提供を開始するなど、本格的な参入の動きが出てきました。
近い将来、異業種の参入により、保険業界の競争がさらに激化することが予想されるため、国内の保険会社は継続的にイノベーションを起こしていかなければ、生き残っていくことは難しいのが現状なのです。
こうした中、既存の保険会社は何を考えれば良いのでしょうか。そもそも、保険は目に見えにくい価値を提供するサービスであるため、保険金の受け取りのタイミング以外では、利用者にサービスの良さを実感してもらえる機会は少ないです。いかに保険の価値を実感してもらい、利用者のサービスに対する満足度を高めていくかが、課題となります。
そうした課題を解決していく上で、デジタル技術により新たな保険商品を提案したり、顧客接点を増やしたりすることが重要になると考えます。たとえば、たくさん歩くとお金が還付される保険のように、顧客の行動データなどをもとに日々の暮らしをサポートする機能を備えた保険商品はその1つの例と言えるでしょう。
今後は、健康を維持する、病気を予防する、事故に遭遇する確率を減らすなど、幅広い範囲での安心の提供が不可欠となります。同時に、日々の暮らしを広範囲でサポートすることで、利用者とのタッチポイントが増え、細かなニーズに対応したサービスの提供が可能になると考えています。
AI活用による業務効率化の事例:大同生命
他方、イノベーションの進化によって、これまでは難しかった業務の効率化が実現できるようになっています。たとえば、保険契約時に引き受けの可否の判断をする「アンダーライティング」の業務において、AIを活用した大同生命の事例があります。
同社は、保険契約時の引受査定でAIを社員の判断サポートとして導入しました。引受査定業務の中でも、医的判断が求められる「医務査定」においては、従来は人による確認項目が多く、一律でのルール化が非常に困難でした。その難易度が高い医務査定業務において、AIが事前査定を行い、査定の予測結果とその根拠、類似事例が査定者(社員)に示されます。これにより、査定時間が短縮できる点が特徴です。
たとえば、被保険者の健康リスクを確認する際、告知情報や健康診断結果のデータをインプットに、AIに事前に査定予測をしてもらいます。査定予測結果を参考に、査定者が引受に問題ないと判断した場合は業務が完了し、判断が更に難しいものは医師に相談するプロセスになっています。
この事例から見えてくるのは、単に「AIが優れている、便利である」ということだけではありません。従来、人が行っていた役割の一部をAIが担うことによって、一部の煩雑な業務から人が解放され、査定判断などのより責任の伴う役割に集中できるようになります。それまでそのプロセスに関与していた人の役割がどう変化していくのか、ということも見えてくるのです。
このように、AIに任せるところはAIに任せて、人でなければ判断できないところは人が判断するという役割分担をすることによって、AIが査定を支援し業務を効率化させることに加え、査定時間の短縮という形で顧客体験の向上にもつながっていくのです。
保険会社は歴史の長いところが多く、合併を繰り返しているところもあります。そのため組織が複雑になったり、硬直化したりしがちです。AIにできることをAIに任せることによって業務プロセスを見直すことが、改めて、人だけが提供できる価値を明らかにし、また最大化することにもつながっていきます。
DXを推進するためには、システムやツールを導入すれば完結するものではなく、人や組織が変わることも重要な要素なのです。
【次ページ】新しい保険サービスの事例:AXA XL