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ここ数年、他業種やスタートアップの金融業界への参入が加速している。競争激化する中、金融機関が取り組みはじめているのが「データ分析」と「機械学習」だ。データ分析と機械学習のポイントと金融機関の事例について、グーグル・クラウド・ジャパン パートナーエンジニアリング本部 技術部長の西岡典生氏に解説してもらった。
他業種参入で競争激化、どうなる金融ビジネス?
金融サービスの競争環境は他業種からの参入によって、ますます激しくなってきました。たとえば、オンライン決済サービスの領域は本来、金融機関が担うべきサービスの領域でしたが、新興企業やスタートアップなど、他業種から参入した企業により、競争環境はますます激しくなってきています。
既存の金融機関は、現状のビジネスモデルを維持するだけでは、新規参入組に金融サービスの市場シェアを奪われてしまう可能性があるため、大きな変革が求められているのです。
こうした状況を踏まえ、この数年で多くの金融機関が新しいチャレンジをするようになったという印象を持っています。たとえば、複数の金融機関において、店舗での対面営業をベースとした販売の在り方や、社内の既存システム依存などといった、これまでの枠組みから脱却するための取り組みが見られるようになってきました。
具体的には、デジタルバンキングのサービスといったオンラインチャネルの強化・拡大のほか、従業員の働き方の多様化、多様な人材の採用、パブリッククラウドを使ったデータ分析・機械学習の活用の事例が出てきています。
金融機関だけでなく、金融機関の挑戦を支援するシステム開発会社を中心としたパートナー各社の動きも活発になってきました。こうしたパートナー企業が関わる事例の中には、金融機関の新たな取り組みに企画段階から参加し、技術提供や開発支援を行うケースが出てきています。
そのほか、コミュニティの動きも活発になっています。Google CloudにおいてはJagu`e`r(ジャガー)と呼ばれるエンタプライズユーザー会が立ち上がっており、お客さまに加えてパートナー企業も多数参加しています。コミッティメンバーにはSCSKさま、エヌ・ティ・ティ・データさま、クラウドエースさま、野村総合研究所さまといったパートナー企業が参加され、コミュニティ活動の1つとして金融分野ではFISCリファレンス研究会の活動が行われています。
金融機関にとって新しい金融サービスを構築するためには最先端の技術や資本が不可欠になるため、パートナー企業の存在が新規サービスを展開する上での大きな助けになるのです。もちろん、パートナー企業にとっても新しいサービスを共創することで、ビジネスの機会が拡大できるメリットが生まれます。
たとえば、みんなの銀行さまには、アクセンチュアさまが開発支援を行っているほか、当社も「Spanner」と呼ばれる分散データベースサービスで「東阪両現用」を実現するための機能提供を行い、同行の変革を支えています。
データ分析・機械学習が重要なワケ
金融機関がデジタル変革を実現していくための手段として、データ分析・機械学習・クラウド活用が必須になると考えます。
これまでは一等地に営業店を構えれば、新規顧客との接点や信頼の獲得が可能だったかもしれません。しかし、オンライン取引がメインになると、従来のままでは顧客との関係構築が困難になります。
このように、顧客接点が非対面のインターフェースへシフトすることに合わせて、たとえば、金融機関の提供するWEBサービスやモバイルアプリの利用履歴や問い合わせ履歴などの顧客のデジタル情報を分析し、顧客に最適なサービスの提案や、経営戦略の意思決定に生かすことが求められるでしょう。
また、データ分析や機械学習を活用することで業務効率化を進めることも重要です。たとえば、問い合わせ対応の一部をチャットボットが代替したり、OCR認識ができる機械学習のサービス活用で紙の資料の電子化や仕分けを自動化したりすれば、バックオフィス業務を効率化できます。
みんなの銀行さまはデータ分析や機械学習を効果的に活用しようとされている金融機関です。同行は、営業店を利用しない若者を主要ターゲットにして、モバイル、オンラインのインターフェースを顧客接点の中心に据えています。オンラインで完結するサービスを提供することによって、デジタルの顧客データの収集と分析が進み、パーソナライズ化されたサービスの充実につながる好循環が生まれることが期待できます。
データ分析・機械学習活用の「3つの方向性」
金融機関でのデータ分析・機械学習の活用の在り方には、3つの方向性が考えられます。
1つ目はバックオフィスの効率化という方向性です。機械学習の活用により、紙の帳票などの電子化を効率化するだけでなく、コールセンター業務の一部をチャットボットで代替するなど、人が行っていた業務をシステムで肩代わりすることができます。
2つ目は、顧客の行動履歴や取引内容をリアルタイム分析することで、行動特性を把握でき、不正取引を抑制することができます。なおかつ一部の分析結果を投資情報として公開することで、さらなる金融取引の増加につなげることも期待できるでしょう。
3つ目のイメージは、新しい金融サービスの開発につながる技術の活用という観点です。たとえば、これまでのように紙の資料の提出を必要とせず、オンラインで取引が完結できるデジタルバンクサービスの提供がその一例です。機械学習とOCRの認識機能を組み合わせることで、身分証明などの情報の読み取りを人の代わりにシステムが行い、新規契約の手続きモバイルで完結させることで、より利便性の高いサービスの提供が可能になります。
ただし、こうしたデータ分析・機械学習の活用をオンプレミスで実現しようとした場合、大量のハードウェアやソフトウェア機能を用意しなければなりません。ワークロードの規模の予想が難しいため、余分な投資が発生する可能性もあります。ここに、従量課金形態のパブリッククラウドサービスを使えば、投資に伴うビジネスリスクを低減できます。ITインフラのコストの最適化ができるため、予測が難しいビジネスプロセスではパブリッククラウドの活用が現実解だと考えています。
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