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現在、国土交通省の推奨を受け、各地で地域特性に応じたそれぞれのMaaSの実現に向けて、新たなモビリティサービスの実証実験が展開されている。しかし、実験と本番運用との間に差が出てしまい、「利用者が増えない」事例が発生している。具体的にこうした事例を紹介した前編に引き続き、後編では「解決編」として、「地域MaaS」を成功させるためのポイントについて考察する。
技術的検証に特化した実証実験の限界とは
前編では、地域特性に応じたMaaSを実現するモビリティサービスの1つとして「自動運転×グリーンスローモビリティ(グリスロ)」の実証実験を紹介。実験過程で見えてくる「課題」について「A自治体」の例を示し、その“難しさ”を解説した。
後編では「解決編」として、「地域課題」を解決するMaaSの条件について、どんなモビリティサービスを設計すべきなのか、解決策を提示する。
まず、「A自治体」事業の特徴について改めて触れておこう。とかく日本版MaaSなどと銘打った実証実験では、メーカーや事業者側からみた新しい技術や基盤そのものの導入が全面に打ち出され、「新しい技術の提供自体が目的」化されがちだ。
そのため、地域の実情と解離した機能や運用スキームとなってしまっている例が散見される。A自治体においても、そもそも住民の真の需要と解離した技術検証が中心となってしまったことが利用者伸び悩みの背景にありそうだ。
今後は事前のマーケティングやソフトウェア(機能面、運用面)の精緻な設定、導入スキームそのものに関する調査・コンサルティング機能の組込みが欠かせないだろう。
ただし、同様の実証実験では全般的に、コンサルタントが参画し実証実験を支援する事例は確認されても、当該コンサルタントが事務局機能の支援や技術的支援に特化した参画に留るケースが散見される。地域実情に立脚した本来の地域課題解決の在り方や運営において必須となるはずの経営的側面での支援がおざなりになっているように思えるのだ。
住民の課題にマッチした解決策の導出が必要な理由
そもそも、こうした事業は住民の需要にマッチしているのかを仔細にリサーチする必要がある。そのためには、モビリティサービスに期待する住民の割合がどの程度で、どういう属性の住民がどの程度利用するのか、平日と土日での利用想定はどうか、といった事前の調査を念入りに実施する必要がある。
そのためには、モビリティサービスに期待する住民の属性(性差、年齢、地区別偏差)のほか、これに代わる代替機能の有無とその内容(近隣住民による善意の自家用車による輸送実態、近居の親族による家族内輸送の実態など)といった地域ならではの実態を捕捉することが重要だ。
次に、A自治体でみられるとおり、そもそも利用料金の想定は地域の所得実態に合致しているのか、についても検証が必要である。
たとえば、家計調査や消費実態における地域住民の所得実態の捕捉でカバーすることに加え、導入予定地域の住民の平均所得と全国平均との乖離(偏差)といった情報にも目配せが必要だ。こうした事前調査が精緻に実施されていれば、そもそも継続的な事業運営が可能かどうかなど、すぐに判明することだろう。
さらに、平均的なモビリティサービスの月間利用回数を念頭においた、住民所得に占めるサービス利用料金負担の割合(交通費消額に占める程度とその負担感の捕捉)を算定したうえで、実証実験前後で整合の確保された住民期待の変化度合いを捕捉することを目的とした定点観測、すなわち、住民アンケートの精度確保が欠かせない。
地域住民の生活実態を踏まえた住民の期待の中身、およびその期待の大きさについて、複数回にわたる住民アンケートの実施で、同一視点での経過観察(比較分析)を可能とするKPIの設定が重要なのだ。陥りやすい誤りとしてみられるのが、「自動運転サービス需要」について質問するアンケートの類だ。
住民はそもそも自動運転を需要しているのではなく、「便利な移動手段」を期待しているのが実態だろう。とりわけ過疎地域や限界集落などにおいて住民は、自動であろうが運転手による操作であろうが、自身の手による運転であろうが、近所の人が親切に同乗させてくれようが、利便性が高く、利便性が高く安価な(どちらかといえば無料での)移動手段自体を求めているのだ。
ただし、観光客だけは別である。観光は一時的な精神高揚を伴う傾向にあり、現地でのサービス向けの高額支出をいとわないともされる。すなわち、観光地でモビリティサービスを土日に限定したうえで観光客向けに提供する、といった手法であれば有料サービスであっても一定の需要が期待できる。
【次ページ】地域の平均所得に基づかない利用料金設定のレトリック