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新型コロナウイルスによる外出自粛によって飲食店や小売店が大打撃を受けている。資金繰りに窮した事業者の中には、「現金確保を優先するためキャッシュレス決済をやめる」ところも出てきている。一方、紙幣はウイルスに汚染されている可能性が高く、感染拡大防止という観点ではキャッシュを進めたほうが良い。今回はウイルスによる感染が危機の発生源となったが、今後やってくる危機は自然災害などをはじめ感染症だけとは限らない。決済は止めることのできない社会の基本インフラであり、どのようなリスクがあるのか、事前に十分なシミュレーションや議論を積み重ねておく必要があるだろう。
なぜ、キャッシュレス決済をやめる事業者が増えているのか
政府のコロナ対策がスムーズに進まないことから、各種の支援金を受け取りたくても受け取れない事業者が数多く存在している。こうした事業者に対するつなぎ融資の手段としてフィンテック(ITと金融の融合)を活用したサービスが注目を集めており、本コラムでも
オンライン融資や請求書の買い取り(ファクタリング)を手がける事業者について取り上げたことがある。
新型コロナ危機によってフィンテックの重要性が高まったといえるが、一方で、別の動きも出てきている。外出の自粛要請によって売上高が激減した飲食店などを中心に、キャッシュレス決済をやめ、現金取引に逆戻りするところが増えているのだ。
現金取引に戻した理由は、入金までのタイムラグである。クレジットカード決済の場合、事業者との契約にもよるが、販売した月の末日締めで、支払いは翌々月末というケースも珍しくない。業種によっては翌月入金というところもあるが、カード決済の場合、相応の時間がかかるのが現実である。
近年、普及が進んでいるスマホ決済サービスの場合、もっとも短いケースでは翌日払いに対応しているサービスもあるが、顧客がどの決済手段を用いるのか分からないので、事業者としては入金の日時と金額を事前に確定できない。
また、資金繰りに窮している事業者の場合、日々の家賃や仕入れの支払いに追われているので、数日の入金ズレが致命的な事態を引き起こす可能性もある。現金決済に戻すところが出てきても不思議ではない。
存続のために現金確保か、感染防止のためにキャッシュレス維持か
だが、感染が拡大している中で現金決済に切り換えることには、別のリスクを抱える可能性もある。1つは新型コロナの感染の拡大であり、もう1つはキャッシュレス決済の利用を望む顧客を逃してしまうという機会損失である。
紙幣は身の回りにあるものの中でもっとも汚い部類に入るといわれており、一部ではトイレの便器なみに汚染されているとの指摘もある。当然のことだが、紙幣は不特定多数の人が触れるので、感染拡大の温床となりやすい。今回のコロナ危機に際して専門家の多くが、紙幣はできるだけ使わない方が良いと指摘しているほどだ。
いくら、小売店で「密」を防ぐ措置を行っても、大量の紙幣をやり取りしている状況では、その効果が半減するのは目に見えている。利用者の中にも、できるだけ紙幣を使いたくないという人が増えており、こうした人はキャッシュレス決済できる店舗での買い物を望むので、事業者が対応できる決済手段を現金オンリーにしてしまうと機会損失を引き起こす。
この問題は基本的に事業者に対する入金サイクルを短縮することで対応が可能である。日本ではクレジットカードの普及が遅れたこともあり、欧米のような競争環境が構築されなかった。このため、カード会社に有利な商習慣が続き、事業者に対する入金サイクルがなかなか改善されなかったという事情がある。
今回のコロナ危機をきっかけに、すべての決済事業者が即時入金に対応すれば、一連の問題は回避できるので、決済事業者各社には英断が求められている。
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