• 2025/02/05 掲載

2025年もコメ不足?消えた60億杯、備蓄米放出で露呈した「コメ業界の危機」(2/2)

「インフレ時代の農業」

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2025年夏に再びコメ不足の可能性

 コメの在庫の水準は、近年で最も低くなっている(図表2)。

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図表2:「米の基本指針(案)に関する主なデータ等」(令和7年1月)
(出典:農水省)

 この状況で2024年産の生産量が減っていれば、コメはほぼ確実に不足する。昨夏の米騒動で、2023年産米までの在庫が食いつぶされたからだ。2024年産米は、そもそもコメが大幅に不足した状態から取引を始めている。マイナスからのスタートなのだ。

 だから農水省は、2024年産米が不作だと都合が悪い。幸いと言うべきか、同省が8000筆(枚)もの田んぼを調査して出した2024年産の作況指数は「101」。平年を100とするこの指数としては、「平年並み」となる。生産面積に作況指数を掛け合わせた結果、生産量は増えているはずだと同省は主張してきた。

 これを素直に受け止める業界関係者は、ほとんどいない。部会に出席した委員からも作況指数が現実と異なるとの苦言が相次いだ。

 理由はいくつもあるが、1つに近年広く発生する高温障害が挙げられる。ひどいと10アール当たり収量が何割も下がるうえ、地域や田んぼによって大きな差が出る。作況指数を割り出すための抽出調査では、もはや正確な収穫量を把握できない。だから作況指数は業界関係者から信用されていない。

備蓄米の放出に「民業圧迫」や「返還不能」の恐れ

 減反政策は毎年3,500億円を拠出して行われている。机上の計算で供給と需要をつり合わせるという農水省のもくろみはそもそもむちゃであり、近年、離農の加速や高温障害といった不確定要素が拡大して限界を迎えている。米価を上げるには供給量を需要量ギリギリまで抑える必要があるが、農水省の読みが外れる年が続いている。

 食糧部会に話を戻すと、2時間で2つの議題を話し合うはずが、第1の議題である備蓄米の放出の是非だけで1時間50分かかった。委員からの意見に対する武田氏の回答は「生産基盤強化、安定供給につなげていきたい」といった当たり障りのないものに終始した。

 この部会が「適当」との結論を出した備蓄米の放出は、いくつもの問題を抱えている。

 まず、備蓄米を渡す相手として想定している団体に偏りがあることが挙げられる。JAグループのコメの集荷率は、公称54%(2023年産米)なので、ここを中心に供給すればそれなりに不足が解消され得るのは事実だ。とはいえ、ほかの小規模な事業者が不利な競争を強いられる「民業圧迫」となる恐れが否めない。今後値崩れが起きれば、高値が続くと見越して在庫を確保した業者は損をする。

 次に、備蓄米を売り渡した分は新米が出てきたら買い戻す、要は返すという前提に無理がありそうだということ。集荷業者に売った分は、政府が1年以内に同等、同量の国産米を買い戻すというのが条件になっている。これは集荷できていないコメがかなりの量眠っているとの「仮説」(農水省)に基づく。

 現実はその逆で、2024年産米は農水省の主張とは裏腹に不作だった可能性が高い。そうなると、今夏は再びコメが足りなくなりかねない。1年以内に在庫の余裕が生じなければ、返しようがなくなる。そうなると、なし崩し的に返還しなくてよくなるのだろうか。

 備蓄米放出は、農水省がやりたかったわけではなく、米価の高騰に世論の不満が高まることを重く見た官邸主導の動きとされる。その内容や審議の過程が矛盾だらけなのは、当然だ。減反政策というコメ業界の「ラスボス」を放置したままの対症療法は、果たしていつまで有効なのだろうか。農政に一家言あるとされる石破政権のうちに、何らかの改革が進まなければ、次の機会は巡ってこないかもしれない。

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