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- 2024/08/01 掲載
【異常】インフレなのに、なぜ「コメ」長期的に値下がり?日本の農業の「構造的問題」
連載:山口亮子が斬る、インフレ時代の農業ビジネス
食品の値上げをよそにコメは値下がり
総務省は、2020年の価格を100とした場合に、現在の価格がいくらになるかを「消費者物価指数」として公表している。それによると、24年5月に食品は116.8だった。4年で価格が16.8%上昇したわけだ。
農林水産省は、農業版の消費者物価指数といえる「農業物価指数」を公表している。やはり20年を基準として、現在の農産物や資材の価格がいくらになるのか算出したものだ。
それによると、24年5月に農産物価格指数は115.1だった。上昇率は食品をやや下回る程度ながら、品目別の落差が大きい(下図参照)。
コメは94.2で、かえって5.8%値下がりしている。
種や苗、農薬、肥料、燃油、段ボール、農機具といった必要な資材(農業生産資材)の物価指数は120で、2割上がっている。必要経費が人件費も含めて上がる中で、コメの値下がりは異常である。
コメは、農家の7割が生産し、最も多くの農業産出額を稼ぎ出す作物である。それだけ農業に占める重要度の高いコメが、1人負けの様相を呈している。
コメ農家の年間所得はわずか1万円
統計で見ると、平均的なコメ農家は、まったくもうかっていない。21、22年ともにその農業所得は、わずか1万円にすぎない。1経営体の平均的な面積は、約2.5ヘクタール。1ヘクタールはだいたい学校の運動場くらい。運動場2.5枚分を耕してこれでは、当然ながら食べていけない。それでも生計が成り立つのは、年金や兼業先の会社の給与といった農業の外から得たお金を、もうからない稲作につぎ込むからだ。
そもそも、コメに限らない農家の世帯員1人当たりの農業所得は長年、年間40万円を下回ってきた。農業所得を労働時間で割って時給に換算したら、最低賃金を下回ってしまう。
農家のほとんどは家族経営で、経営としての農業と生活の境目があいまいになっている。労働基準法は、同居する親族だけを労働力とする家族経営には、適用されない。だから、労働に対する報酬をじゅうぶん確保できなくても、経営を続けるということが許されてしまう。
いま、農政のキーワードの最たるものは「食糧安全保障」と「価格転嫁」だ。価格転嫁ができないのは、農産物が安く買いたたかれるからでもあるが、農家に経営の意識が希薄で、安値を受け入れてしまうからでもある。零細な経営が多く、価格交渉力を持ちにくいという問題点もある。
そうした農家を束ねる存在である農業団体のJAには、交渉力を発揮することが期待されている。JAグループを代表する全国農業協同組合中央会(JA全中)は、適正な価格形成に向けた速やかな法制化を国に求めている。裏を返すと、農家が望む値上げを実現できているところは限られるということだ。
農業が価格転嫁ができない産業になっていることは、周りから強いられたというよりも、業界としてそういう状態を甘んじて受け入れてきたといえる。 【次ページ】発展途上国と共通する農家の多さと生産性の低さ
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