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貧弱な日本の航空政策
東京大学の鈴木 真二氏は、日本の航空戦略について次のように語る。
「日本は、米欧中に次ぎ航空産業の売上が高い国です。遅くとも2030年までにオールジャパンの力を結集した上に国際共同で新世代機を開発する指針を立てるべきです。国家プロジェクトであるGI(グリーンイノベーション)を活用した水素航空機などの革新技術の開発が有力だと思います」と強調する。
中村氏は次のように説明する。
「日本は宇宙戦略を立てていますが、長らく航空戦略が欠如していました。また、宇宙基本法のような航空基本法もなく、特命担当大臣の存在もありません。事業を推進するための予算については、宇宙戦略基金では2022年の補正予算で3,000億円が充てられているのに対し、そもそも航空に戦略基金はありません。宇宙に比べて航空政策は貧弱だったと言えるでしょう。2024年になり、経済産業省から『航空機産業戦略』が出されたことで今後に期待しています」(中村氏)
政府が明確な方針を示し、産業をリードすることで、日本独自の航空機製造能力を強化することが必要だという。宇宙戦略が大事なのはいうまでもないが、宇宙開発の基礎は航空分野から取り入れられている。導入としてまず航空戦略を拡充させることが順番ではないかと両氏は指摘する。
世界で存在感を増す航空機部品メーカー
日本には、世界的に高いシェアを誇る
航空機部品メーカーが多数存在する。
たとえば、炭素繊維強化プラスチックを製造する東レ、航空機・装備品で世界シェアの高い、ジャムコ、ナブテスコ、パナソニックアビオニクス、住友精密工業、多摩川精機、日機装など。これらをまとめる重工会社として三菱重工、川崎重工、スバルがある。また、エンジン分野では、IHI、川崎重工、三菱重工は民間用完成エンジンの実績は まだ有していないが、構成要素の開発・生産で優れた存在感を示してきている。
さらに、航空機部品を製造する中小企業は日本全国に広がっている。たとえば、航空関連産業の盛んな愛知県には「あいち・なごやエアロスペースコンソーシアム(ANAC)」がある。地域の行政、支援機関、業界団体および大学が一体となり、愛知県の航空宇宙産業の振興・継続的な発展に努めている。中小企業であっても、技術力があれば、このようなコンソーシアムの力を借りて世界に進出していける。
ボーイングの下請けからのどのように脱却するか?
日本企業は長年、ボーイング広胴機の下請けである。ボーイング767型機の機体構造部分の部品供給シェアは、日本は16%から始まり777では21%、最新の787型機では35%と徐々にシェアを上げている。また、最新の傾向では、ボーイングの製品問題からエアバスへの部品納入シェアを増やすメーカーもある。「航空機製造国として独自の道を切り開くためには、この下請け状況から脱却することが必要だ」と両氏は語る。
航空機製造には国際的な認証取得が求められる。中村氏は、「現在の航空業界は『A=Airbus、B=Boeing、C=Comac』という欧・米・中の大国の包囲網で進んでいます。日本はここに風穴を開けるべく、米仏などの協力を得て完成航空機の製造を目指すべきです」と指摘する。
航空機の型式証明は開発国と運航会社の登録国の認証が必要であり、国産機は、日本のJCABと、米国の連邦航空局(FAA)および、欧州のEASAの認証を取得することが重要であるという。
2030年ごろまでに新動力を搭載した新世代機の開発を進め、2035年には就航開始するスケジュールで進行できれば、日本は世界市場で新たな地位を確立できるだろう。
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