最後のピースがそろったシャープの「全社的エネルギー戦略」

　ここでシャープ傘下のシャープエネルギーソリューションの五角博純社長が提案するのが、「AIによる自動化でエネルギーの最適消費を行う」という考え方だ。

　シャープには、スペースソーラーによる電力供給、ペロブスカイト太陽電池による従来の1.5倍の発電量を持つ太陽光パネル、S-ZEH（Smart Zero Energy Home）などの技術もあり、これらを活用することによりエネルギー供給と消費抑制を行うことが可能だ。

　さらに、シャープの家庭用エネルギー管理システム（HEMS：Home Energy Management System）「COCORO ENERGY」によって自動的に家中の家電をコントロールすることも可能だ。



　今年のように猛暑が続くとBtoBでは電力逼迫（ひっぱく）などのエネルギー危機が起きがちだ。中部電力ミライズでは、家電の電力抑制によりピーク時電力消費を低めて必要なところに回す「NACHARGE」（ネイチャージ）という試みを現在進めている。

　これは中部電力利用地域の家庭が参画できるプログラムで、電力逼迫が予想される時間帯に家庭の電力消費を抑えるお願いメールが届く。これを受けて「エアコン温度を1度上げる」「洗濯機や掃除機などの使用を控える」といった行動を起こした家庭に対し、ポイントが付与される仕組みだ。

　しかし、「メールが届いた時点で不在である」「手動で家電機器を操作するのが面倒」といった理由で、この方法では個人のモチベーションを維持するのが難しいという点もある。そこで、シャープのCOCORO ENERGYによりAIで自動的に家電による電力消費を抑制することにより、DR（デマンドレスポンス）比率を高めることが可能となる。シャープでは「NACHARGE Link」とサーバを介してダイレクトに通信することにより、自動制御が行える。


　このシステムは一種のVPP（仮想電力発電所）とも呼べるものだ。VPPとは、各家庭が太陽光パネルで得た電力を蓄電システムに保存、あるいはEVにため込み、グリッドからの電力要請に応じてそれを放出し対価を得るという考え方だが、家庭の電力消費抑制によりそれに近いことが行える。

　一方で、シャープは家庭用蓄電池システム、V2H（Vehicle to Home：EVにためた電力を家庭内で使える仕組み）などの技術も持つ。ここにシャープのEV「LDK+」が加われば、まさに完璧なVPP対応が完成することになる。LDK+はその車体の大きさから電池容量も大きくなることが予想されるため、災害時のV2H、さらには災害時に現地への電力供給という目的も加わることになるだろう。

　つまり、シャープにとってEV開発はエネルギーを巡る同社のエコシステムの最後のピースでもあり、単なる新しいEVモデルである以上に同社の全体的なエネルギー戦略のうえで重要な要素にもなり得る。

今後のVPPに必要な要素をシャープが持っているワケ

　今後のVPPは、マイクログリッドによる電力の地産地消にも広がりを見せ、P2Pの電力融通も可能になると考えられている。しかし、そのためにはAIoTで「つなげる」ことが重要となる。AIデータセンターの新設によるデータ処理の必要性も出てくる。電力消費量の大きいデータセンターをいかに省エネ化するかも社会課題の1つだ。

　つまり今後はハード、ソフトをともに開発する必要性があり、業態の垣根を乗り越えていく、業態にこだわらない全体としての取り組みが必要とされる。

　そして現時点で、シャープはハードもソフトも自社である程度まかなえるという位置にいる。EVを単なる車ではなく、「総合的エネルギーソリューション」の一環として捉えるならば、シャープの進んでいる方向性は決して間違いではないのかもしれない。