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2024年5月の世界PEV (バッテリーEVとプラグイン・ハイブリッド車)の販売台数は132万台に達し、前年比23%増を記録した。バッテリー価格の低下や排ガス規制の強化などが奏功したと考えられるものの、その成長の裏には米国での大幅な値引きも影響していたようだ。一方、中国製EVは欧州市場でも勢力を伸ばしている。今回、名古屋大学 客員教授 野辺 継男氏が自動車業界の関係各者向けにまとめたレポートから、そうしたEV市場の動向を紹介する。7月分の報告書のタイトル全リスト(全95項目、29ページ)を無料でダウンロードできるページも用意しているので、ぜひ活用してほしい。
自動車業界が混乱…欧州では「中国EV」存在感
2024年5月におけるPEVの世界販売台数は前年同月比で23%増加し、全自動車市場におけるシェアは約20%に拡大した。しかし、PEV市場の拡大は地域別に見るとバラつきがある。中国では33%増加し、北米市場でも18%増加したものの、欧州市場は10%減少した(特にドイツの落ち込みが23%減と大きい)。
また、米国拡大の中身を見ると、各社が補助金付き融資やリース契約を含む販売奨励金を注ぎ込む「大幅割引き」によって販売台数を伸ばした側面が見られる。たとえば、Motor Intelligenceのデータによると、米国で最も売れているTesla Model Yは5月に5,570ドルの割引が行われたのに対して、4~5月の期間に、売上台数第2位のフォードはその2倍近く、第3位の起亜自動車は3倍近い額を割引き、売上台数を前年から大幅に伸ばした。テスラは、値下げにより利益率を下げたものの依然として黒字を維持しているが、他社の多くは損益分岐点に達する前に大幅値引きを行っており、今後販売台数が拡大しなければ、事業の持続可能性が危ぶまれる企業も出てくる。
こうした中、7月22日の週、各社の上半期の決算が発表され、総じて株価が大幅に下落した。世界第4位の自動車会社であるStellantisのCarlos Tavares CEOは7月25日、テレビ番組のインタビューで「自動車業界は混乱している。結果を見ると、誰もが同じ方向に向かっている」と指摘。自動車産業のCEOがこのように語るのは極めて珍しい。
一方、中国市場は世界のPEV市場全体の60%以上を占めるなど拡大を続けており、さらに中国製EVが欧州市場で新たな脅威をもたらしている。EUレベルでは中国製EVに対する関税を最大48%に引き上げる中、欧州の各国レベルでは地元産業との協力による中国PEVの国産化に動いている。
たとえば、スペインでは奇瑞汽車(チェリー自動車)がEbroと提携しOmoda E5を投入。BYDはハンガリーに自社工場を建設する計画を発表するなどの動きが見られる。このように、EUは中国車に対する輸入関税を課しながらも、2035年に内燃自動車の販売を段階的に廃止するという目標を達成するために、安価なEVを必要としている。実際、中国PEVはここ数年で圧倒的に安くなったLFP (リン酸鉄)バッテリーの採用とPEVの量産効果により、持続可能な低価格化を推進しているように見える。
世界的な自動車会社のEV販売頭打ちが指摘される中、中国PEVは引き続き成長を見せている。今後、世界の自動車産業がどのように変動していくのか、幅広い視点から注意深く分析する必要がある。以下では、7月分の報告書より本記事に関連するタイトルを抜粋しているので参照いただきたい。
【2024年5月、世界のPEV販売台数は130万台に達する、insideEVs 、7月8日、2024年】
2024年5月、PEVの世界登録台数は、一部の市場、特に欧州での減速にもかかわらず、132万台以上の乗用車用PEVが新規登録され、市場シェアは前年同月の16%に対して約20%に増加した。
BEVの登録台数は、PEV登録台数全体の約66%を占め、86万台以上となった。伸び率も前年比17%に達した。PHEVの登録台数は、前年比37%増と拡大し、5月にはおよそ45万台に達した。
中国市場は世界のPEV販売台数の60%以上を占め、5月には前年同月比33%と急成長した。欧州は10%減少したものの、その他の地域も成長している。米国とカナダが前年比18%増だった。
【BYDの敵はBYDの値下げに対抗し、ガソリン車を大幅値引きする、Bloomberg 、7月15日、2024年】
最近のデータによると、PEVの普及率は50%に近づいており、内燃機関自動車への依存度が高いブランドが復活を遂げる余地は少なくなっている。
上海汽車VWは、売れ筋セダンのひとつであるLavida XRの価格を6万9,800元(9,630ドル)に引き下げ、BYDの人気ハッチバック車Seagullに並んだ。販売台数が前年同月比で15%近く減少しているトヨタは、中国仕様の最新セダン「Camry」の価格を17万元から13万元に引き下げた。
かつてはトップセラーだった日産のセダン「Sylphy」や、SAIC-VWの「Sagitar」、「Lavida」は、月次販売台数でBYDの後塵を拝している。GMはさらにつまずき、第2四半期の販売台数は前年同期比29%減となり、2018年のピーク時の半分以下にまで落ち込んだ。
【自動車産業は大丈夫ではない、Bloomberg 、7月25日、2024年】
自動車産業のCEOレベルがこのように語るのは珍しい。StellantisのTavares CEOは、木曜日のBloomberg TVとのインタビューで、「自動車業界は混乱している。結果を見ると、誰もが同じ方向に向かっている」と述べた。
今週の各社決算発表で、Renaultは上半期の純利益35%減で株価は約2年半ぶりの急落。Fordの株価は18%急落。日産は15カ月ぶりの安値まで下落。Stellantisは、2021年初頭の会社設立以来最も下落。Teslaの期待外れの結果に続き、GMの株価は6.4%下落。Porscheも通期見通しを下方修正し、2022年9月の新規株式公開以来最大の暴落を記録。
欧州自動車工業会会長de Meo氏(Renault CEO)は、2035年までにすべての新車をゼロエミッションにするという目標について、EUは譲歩する必要があると述べた。
【中国製EVが欧州の自動車メーカーに新たな脅威をもたらす、Bloomberg 、7月26日、2024年】
不振にあえぐ欧州レガシーメーカーに対する中国メーカーの価格優位性を弱めるためのEU関税に対抗し、中国のEVメーカーは欧州での事業拡大を進めている。
EUレベルでは中国製EVに対する関税を48%にまで引き上げる中、国レベルでは地元産業と手を組み中国の新世代の環境対応車を国産車とみなされるようにしている。
スペインではCheryがスペインEbroと提携したOmoda E5が登場する。ポーランドでは、LeapmotorのT03シティカーがStellantisが所有する組立ラインから出荷される。BYDはハンガリーに自社工場を建設する計画を発表しており、トルコでも工場建設が予定されている。Zeekrは親会社であるGeelyが所有する欧州の生産拠点を検討している。
EVレポート(全29ページ)のPDFデータをダウンロードできます
→ダウンロードはこちらから
(https://www.sbbit.jp/st/document/21797)
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