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とにかく人手が足りない。効率化も一杯一杯で、コストも限界まで切り詰めている。改善しようにも、人材を育てるにも、その時間やお金に余裕がない。企業によって状況に差はあるものの、製造現場は多かれ少なかれ、こうした思いを抱いている。製造業を取り巻く状況は厳しくなる一方だが、ものづくりのやりがいや楽しさを取り戻し、その中で人が育って、生かされるという好循環を生み出せないものか。本連載第1回では、製造現場における人の問題を取り上げ、現場の声も交えて問題を掘り下げていく。
中小製造業の59%が「深刻」と感じる人手不足
日本のあらゆる業種業界の現場が、慢性的な人手不足に陥っている。介護・看護、宿泊・飲食をはじめとする非製造業が特に深刻だが、製造業でも現場の人手はひっ迫している。
日本商工会議所と東京商工会議所が全国47都道府県の中小企業6013社を対象に行った「
人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」(2023年7~8月実施)によれば、製造業では、人手不足が「非常に深刻(人手不足を理由とした廃業等、今後の事業継続に不安)」な企業と、「深刻(事業運営に支障が生じている)」な企業を合わせて59.4%に上る(図1)。
大企業でも人手不足感が強い。2023年12月の
日銀短観を見ると、「最近」の雇用人員判断D.I.は、製造業の大企業が-16ポイント(製造業の中小企業は-23ポイント)だった。雇用人員判断D.I.とは、人員が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合(ともに%)を差し引いた数値だ。マイナスの幅が大きいほど雇用不足感が高い。
今後3カ月の見通しを示す「先行き」の同D.I.は、大企業が-17ポイントで中小企業が-29ポイントと、いずれも「最近」の数値を上回っている。製造業では、大企業も中小企業も今後、人手不足が深刻化すると見ているということだ。
では、現場の肌感覚はどうなのか。関東地区の某部品メーカーで技術開発責任者を務めるA氏は、「10年前は10人でやっていた仕事を、今は3人でこなしている感じ」だという。
「今は人が足りません。だから個人の負担が何倍にもなります。そして、1人ひとりがこなしている仕事の量が大幅に増えているのに、給料は下がる。残念です」(A氏)
少人数で仕事をこなすために、現場が猛スピードでフル回転している。その中で、いったん立ち止まり、何が問題で、どうすればこの状況から抜け出せるのかを考える余裕もないまま、現場が疲弊している。
現場は「ジタハラ」に嘆いている…
人手不足の状況は企業によって異なるが、製造現場が今、厳しい状況に置かれていることは事実だ。最近まで上場企業の大手機械メーカーに勤務していたB氏は、こう疑問を投げかける。
「1案件ごとにかかる個人の仕事の負荷を減らせれば、そのぶんリソースを有効活用できるはずです。空いた時間で日常業務の改善について考えることも、人材育成を行うこともでき、何か新しいことにも取り組めるでしょう。ところが、その空いた時間に新たな仕事を入れられてしまい、振り返りや改善を行う余裕が生まれない。会社が朝から晩まで常に忙しい状況が、果たして良いことなのか」
あくまで現場の感覚としてだが、とにかく余裕がない。改善が必要なことは嫌というほどわかっているが、その時間がない。
液晶ディスプレイ製造装置で世界的なシェアを持つ産業用生産設備メーカー、プレマテック(長野県茅野市)技術部の土橋 美博専任部長は、製造業における一般的な傾向として、こう指摘する。
「問題なのは、納期が間に合わなければ、休日にも出勤してきて対応することを求める精神論。今求められているのは、『いかに短時間で対応できるようになるのか』という業務改善なり『仕事の工数の適正配分』です。昭和の高度成長期のような仕事をしていてはいけません」
ただでさえ、ひっ迫している現場に「ジタハラ」(時短ハラスメント)がさらに拍車をかける。労働法制が厳しくなり、残業禁止令が社内で出される。長時間労働を削減するのは良いことだ。しかし、時短に先立つ仕事のプロセス改善や、非効率な業務、重複している作業などの削減・見直しなどが見落とされてはいないか。
業務改善や作業工数の適正配分を欠いた残業削減は、現場をさらに疲弊させる結果に終わる。そして、人手不足、そこから来る現場のひっ迫した状況は、人材育成にも暗い影を落としている。
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