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  • 2022/08/30 掲載

物価上昇率80%でもトルコが「利下げ」を決断したワケ、エルドアン政権の“真の狙い”

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トルコが、インフレ率が80%近くに達しているにも関わらず、逆に金利を引き下げるという経済理論とは正反対の金融政策を行っている。トルコはもはや暴走列車と呼ぶにふさわしい状況であり、各国の市場関係者が経済の行方に注目している。トルコの謎の金融政策は、果たして意図的なのだろうか。
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インフレ率80%近くに達しているにも関わらず、なぜトルコは利下げに踏み切ったのか。トルコの謎の金融政策は、果たして意図的なのだろうか
(Photo/Getty Images)

インフレと通貨安に対して金利を下げるという驚くべき決断

 トルコ経済は、製造業が脆弱で、サービス業の比率が高く、景気が拡大すると輸入が増えるため経常収支が悪化しやすい。トルコの通貨であるトルコリラは売られることが多く、国内の物価には常に上昇圧力が加わる。

 強権的な政治で知られる保守派のエルドアン大統領は、「かつての栄光を取り戻す」という壮大なビジョンを掲げ、大統領に就任。力強い経済を標榜し、バラマキ型の政権運営を続けてきた。このためインフレが加速し、2010年代前半に8%だった物価上昇率は、2021年には30%台まで上昇。トルコリラは対ドルで大幅に下落した。

 本来であれば金利を上げることによってインフレと通貨下落を阻止する必要があるが、エルドアン氏がとった行動は驚くべきものだった。同氏はインフレが進んでいるにも関わらず金利の引き下げを中央銀行に要請。反対する幹部を相次いで更迭し、金利の引き下げを断行した。

 この結果、2021年3月時点では19%だった政策金利は引き下げられ、2021年の12月には14%にまで低下。案の定、インフレはコントロール不能の状態となり、直近の物価上昇率は前年同月比で79.6%と8割に近い水準まで上昇した。だがエルドアン氏はこうした状況になっても、金利の引き下げを強く主張しており、2022年8月にはさらに1ポイントの引き下げが決まった。ここまで来るとトルコは完全に暴走列車の領域と言って良いだろう。

 世界には、物価上昇という問題に直面しても、制御できないインフレに陥る国と、そうならない国とに分かれる。たとえばロシアはインフレになりにくい国の典型である。ウクライナ侵略に伴う各国の経済制裁によって、ロシアは猛烈なインフレが危惧されたが、金利の引き上げを強行するとともに、厳格な外貨管理を実施することで何とかインフレ押さえ込むことに成功した。一方、トルコのように、理論とは逆の政策を実施し、インフレを拡大させている国もある。トルコもロシアも大統領が強権的という点では同じだが、この違いはどこから生じるのだろうか。

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世界には、物価上昇という問題に直面しても、制御できないインフレに陥る国と、そうならない国とに分かれる
(Photo/Getty Images)

あえてインフレを放置している?

 インフレを繰り返す国として有名なのは中南米諸国である。アルゼンチンは過去に何度もハイパーインフレに見舞われているし、ベネズエラも制御できないインフレが進行中である。しかしながら、中南米諸国とトルコには大きな違いがある。それはインフレそのものに対する根本的な認識の違いである。

 中南米諸国の場合、インフレを止められないのではなく、社会全体として過度なインフレも許容するような風潮がある。農作物輸出が中心の経済構造であり、基本的に通貨が安くなることは輸出事業者にプラスになるとの考え方が根強い。日本でも輸出競争力を強化するため、円安を強く望む風潮が一部にあるが、基本的な図式は同じである。土地所有者が経済の中核を担っており、インフレが進んでも土地の価格は同じように上昇するため、インフレに対してあまり警戒感を持っていない。

 政権側もこうした事情をよく理解しており、国民の人気取りを目的に大型の財政出動を繰り返し、結果として生じるインフレを放置している面がある。アルゼンチンでは、小麦粉の価格高騰を受けて、低所得者を中心に大規模なデモが発生しており、一部の国民はインフレに対して強く反発している。しかしながら、インフレに対して激しい抵抗感を持つロシアのような国民性とは異なり、社会全体としてインフレに対して寛容であるのは間違いないだろう。

 ちなみにインフレが進むと、国民の預金は物価上昇分だけ毀損する一方、政府債務は物価が上がった分だけ軽減されていく。つまりインフレが進めば、国民が持つ預金から政府に所得が移転するので、インフレは事実上、増税として機能する。だが多くの国民はそのメカニズムに気付かないため、為政者の中には、お金をバラ撒いてインフレにしてしまった方が手っ取り早いと考える人も多い。中南米諸国は基本的にこうしたメカニズムで動いている。

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