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各所に影響を与えた「某携帯電話キャリア」の大規模障害だが、一部の銀行において店外ATMの通信がシャットアウトする事象が生じて話題となった。かつては安心安全を標榜しつつメタル回線(ISDN)で通信を行ってきたものが、公衆回線、しかも携帯電話回線を利用することとなった経緯も含めて振り返り、ATM回線バックアップの課題と対策について解説する。
安心安全へ、金融システム「回線の二重化」にも工夫
「某携帯電話キャリア」の大規模障害により、一部の銀行では店外ATMの通信が遮断される事態に発展した。メタル回線(ISDN)を使った通信から、携帯電話回線を利用することになった経緯を含め、改めて事象を整理する。
まず銀行ATMのうち、店外設置型のタイプは次の3つから構成される。
このうち筐体と警備システムには光回線、緊急用連絡電話にはISDNが用いられるケースがこれまでは多かった。
かつての店外ATMは、信頼性が高く容易に導入できるメタル回線のISDNが利用されてきたが、ISDNから光回線への切り替えが進むなどの外部環境の変化を踏まえ、新たな通信回線の導入が検討されてきた。
他方で、光回線は高い導入コストが課題とされた。なお、光回線を利用するATMでも、バックアップ回線にISDNをそのまま利用するといったケースも見られる。
一般的に、金融システムの回線バックアップの手法としては、異なる通信キャリアの回線を用いるのが有効とされてきた。たとえば、主回線がNTTであれば、バックアップ回線は他キャリアを採用することで、特定の通信キャリアの障害の影響を回避するという考え方だ。
また、同じNTTの回線でも、たとえば全国規模の大型システムなどでは「太平洋側敷設ルート」と「日本海側敷設ルート」を併用することで、同時被災を回避する手法も採用されてきた。
なお、銀行システムでモバイル回線を利用するケースとしては、移動店舗(トラック特装車両にATMを積んで巡回するもの)があるが、これまでは衛星回線を利用するケースがほとんどであった。
ただし、衛星回線の場合、南の空が見渡せる場所といった通信上の制約も存在することから、車両上部へのアンテナ設置などの造作にコストを要するなど、必ずしも利便性の高いインフラとはいえないのも事実だ。
キャッシュレスと「ISDN廃止」を契機にモバイル回線へ
昨今の環境を俯瞰(俯瞰)すると、金融機関はキャッシュレスを推進する中で、カネのかかるATMの運用戦略の見直しに迫られてきた。メガバンクでさえ、複数行による共同の乗り合い戦略を指向することで、地域で重複する端末運用のコストを圧縮しているほどだ。
さらに、信頼性の高いメタル回線であり多くの金融システムで採用実績のあるISDNが、令和6年(2024年)に廃止されることが予定されている。そこで金融機関では、主としてバックアップ回線として利用してきたISDNを代替する回線の確保を急ぎ迫られてきた。
こうした中、ATMの運用上の課題の1つとして店外ATMの通信インフラの見直しが急務となり、通信キャリア側も金融機関に自社回線の売り込みに余念がない。たとえば、次のようなプロモーションが見られる。
- 2024年1月までにISDNのリプレースが必要なので至急代替回線を確保したい
→LTE/3G回線はISDNのリプレースとして十分なパフォーマンス
- 現在のATM併設の電話回線を変更するのはムダなので、そのまま使用できないか
→VoLTE対応ルータにより現在の電話機の継続利用が可能
- バックアップ回線のコストを削減したい
→モバイル回線なので回線敷設工事がなく容易に導入可能。さらに、データ量に応じた変動型の通信料金を実現
通信キャリアが上記1~3を金融機関に訴求した結果、ATMの回線にモバイルネットワークが利用されることになったものと思われる。
こうした中、一部の金融機関のATMで、通常時は光回線でデータ通信し、光回線に障害が発生した場合にバックアップのモバイル回線経由でデータ通信する、といったケースが試行されてきた。
このケースでは、従来ISDNで利用されていたATMに併設されている連絡用電話は、音声通話機能付きルータを使用してモバイル回線(VoLTE)から公衆通話網経由で実現できるというメリットも得られる。その場合は、今回のようなモバイル回線の大規模障害が生じても、主回線の光回線は生きているわけで、大きな問題は生じないはずだ。
【次ページ】コスト意識の行きついた先がモバイル回線のみで店外ATM回線を構築する例
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