【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」
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コロナからの景気回復やサプライチェーンの乱れ、エネルギー確保に向かう中国など、現在あらゆる外部要因により石炭や石油・天然ガス価格の高騰が続いており、世界のインフレ率上昇につながっている。足元では、米国の中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和の縮小(テーパリング)の方針を示し、その後の「利上げ」のタイミングに注目が集まっている。タイミングを間違えれば、経済停滞を招いてしまう可能性すらある利上げだが、米国はどのような条件がそろった時に、利上げに踏み切るべきなのか。
中央銀行の「物価の安定」、ホントの意味とは
「物価の安定」は主要中央銀行の責務とされている。その定義は国によって異なるが、米国、ユーロ圏、日本では「消費者物価上昇率が2%程度で安定すること」を指す。
物価上昇率は表面的な数値以上にその中身が重要だ。そもそも中央銀行が物価安定を目指すのは、それが「持続的な経済成長」に資すると考えられているからだ。
したがって、原油価格などもっぱら外部要因によって物価が著しく上昇し、家計の実質的な購買力が減少したり、企業収益が圧迫されたりする状況において、金融引き締めで物価を下押しするのは「持続的成長」という点において理に適わない。
経済成長を犠牲にしてまで物価をコントロールするのは本末転倒と言えるのだ。特に日本のようなエネルギーの海外依存度が高い国においてその代償は大きい。
間違ったタイミングの「利上げ」がもたらす悲劇
過去を振り返ると、そのように外部要因により家計や企業が苦しくなった状況下で金融引き締め政策が採られたこともある。日本の事例で言えば、2000年代半ばの量的緩和解除(2006年3月)やゼロ金利解除(同年7月)に至った過程がそれに近い。
当時、消費者物価は上昇方向にあったが、エネルギー価格の寄与が大きく、必ずしも内生的なものではなかった。
内生的とは、国内の労働需給が引き締まることで賃金が上昇し、労働コストが価格に転嫁され、賃金と物価が相互刺激的に上昇するというもの。一般にそれは「良い物価上昇」と解釈されている。
2000年代半ばの物価上昇は外生的要因が大きかったにもかかわらず、当時はゼロ金利や量的緩和を「異常な金融政策」であると見なす向きも多く、前のめり気味に金融引き締めが実施された。
また、比較的最近の事例としては2011年4月と7月の欧州中央銀行(ECB)による利上げがある。2011年と言えば、リーマンショックの傷が癒えない中でギリシャの財政不安が表面化し、それが欧州債務問題に発展している最中であった。
当時、金融緩和によって金融市場の不安を和らげる必要性も認識されてはいたが、ECBは消費者物価が2%台後半まで高まっていたことを重視し、インフレ退治の姿勢を明確にして利上げを断行した。
この決定については当時も今も批判的な見方が多い。その理由の1つはインフレ率の上昇要因がエネルギーに集中していたからだ。2011年前半のエネルギー価格は前年比プラス11~13%で推移し、全体の数値を押し上げてきたが、食料・エネルギーを除いたコア物価は1%台前半~半ばで安定していたからだ。消費者物価が上昇していたからといって、利上げを実施する必要性は乏しかったと言えるだろう。
ちなみにユーロ圏のGDP成長率は2011年4~6月期にゼロとなった後、7~9月期はプラス0.1%と低成長に陥った。2011年11月に就任したドラギ総裁は就任直後の11月と12月に連続利下げを敢行したが、GDP成長率は2011年10~12月期以降、6四半期連続のマイナス成長を記録した。
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