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  • 2021/06/18

世界初、ビットコインを法定通貨に採用した「中米エルサルバドル」の狙い

中米エルサルバドルが仮想通貨(暗号資産)ビットコインを法定通貨とする法案を可決した。ビットコインが法定通貨になるのは世界初である。自国通貨を持たない国が仮想通貨を法定通貨にする可能性は以前から指摘されており、今回、とうとうそれが具現化した形だが、同国にとってはドルとビットコインの複数通貨制となるため、金融システム安定化の難易度は高くなる。金融システムの不安定化リスクを背負ってまでビットコインを法定通貨にした背景について探る。

経済評論家 加谷珪一

経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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中米エルサルバドルは、ビットコインを法定通貨にする法案を可決した。同国は、ドルとビットコインの複数通貨制となるため、金融システムの安定化の難易度は高まるが、それでも採用した理由とは?
(写真:ロイター/アフロ)

自国通貨がなければ中央銀行はいらない

 エルサルバドルのブケレ大統領は2021年6月5日、米国のイベントにビデオ出演し、ビットコインを法定通貨とする法案を提出する方針であることを明らかにしていた。実際に法案は提出され、同国議会はこれを可決。ビットコインはドルと並んでエルサルバドルの法定通貨になった。

 エルサルバドルは中米の小国で、人口は約650万人しかなく、1人あたりのGDPは3,800ドルとあまり豊かとは言えない。かつて同国はコーヒーの輸出で栄えていたが、現在は競争力を失っており、慢性的に貿易赤字が続いている。

 2017年の貿易赤字は約48億ドルだったが、経常赤字は4億7,000万ドルにとどまっている。貿易赤字を穴埋めしているのは所得収支の黒字で、そのほとんどは移民による家族への送金である。おそらくだが、米国に移住した人たちが故郷に送金しているドルが大半と考えられる。

 グローバル経済の進展によって中南米全域にドル経済圏が広がり、その流れを受けて同国は2000年に国内の法定通貨をドルにする政策を打ち出した。実際にエルサルバドルでは、2001年からドルが法定通貨となり、自国通貨(コロン)はほとんど流通しなくなった

 原理的に自国通貨を発行しない場合、通貨供給量をコントロールしたり、為替政策を実施することができないので、中央銀行を持つ必要性がなくなる。

 経済学(金融理論)の分野には、国際金融のトリレンマという概念がある。これは、ある国が対外的な通貨政策を実施する際、(1)為替の安定、(2)金融政策の独立性、(3)自由な資本移動、のうち、いずれかを断念せざるを得ないというものである。

 日本を含む多くの先進国は、独自の金融政策と自由な資本移動によるメリットを享受する代わりに、為替相場の安定性を放棄している。一方、ユーロ圏各国、独自の金融政策を諦める代わりに、統一通貨ユーロによる為替安定メリットを享受する制度と考えて良い

 エルサルバドルはユーロを採用した欧州の国家と同じようなものであり、為替の安定を享受する代わりに、自律的な金融政策を放棄したと見なすことができる。独自の通貨を持たず、金融政策を放棄するのであれば、当然の帰結として中央銀行を持つ必要性も消滅する。

 現実にはエルサルバドルには中央銀行が存在しているが、同国の中央銀行は日銀やFRB(連邦準備制度理事会)とは役割が異なっている。

 同銀行のバランスシートを見ると、貨幣を発行していないので、負債の部に銀行券は存在しておらず、通常の民間銀行と同様、預金や借り入れといった項目が並ぶ。一方、資産項目の大半は外貨と国債である。同行に預けられた預金の大半は政府や金融機関からのものであり、政府や銀行のための銀行としての役割を果たしていることが分かる。

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日本・欧州・エルサルバドル、各国の金融政策の考え方の違いとは…?
(Photo/Getty Images)

複数通貨制度はリスクも、ビットコインを採用する理由

 コーヒーの輸出が低迷したエルサルバドルは、移民から送金されるドルが国内消費の源泉となっており、むしろ為替が安定していた方が国内サービス業には有利に働く。こうした同国の経済構造の変化が、ドル化を進める原動力になったと見なせるだろう。

 また同国は、ほかの中南米諸国と同様、政情が安定しておらず、いつポピュリズム政権が成立し、放漫財政に転じるのか予想がつかない。通貨をドルにしておけば、どのような政権でも経済活動を維持できるというメリットも意識されているはずだ。

 つまりエルサルバドルにとっては、今のところ独自の金融政策を実施する意向がないため、極論すれば法定通貨は何でも良い。現時点では、世界の基軸通貨であり、移民からの送金の大半を占めるドルが使われているが、これがユーロに置き換わっても、あるいはビットコインに置き換わっても、決済手段が複数になるだけで経済活動に根本的な違いは生じない。


 ただビットコインを法定通貨に設定した場合、国内ではドルと並んでビットコインも強制通用力を持つことになるので、店舗や企業はビットコインでの支払いを受け入れなければならない。現時点ではビットコインは価格変動が激しく、日常的な決済に使うのは難しい。現時点においては、法定通貨のうち片方は価格変動が激しい通貨ということになるので、相応の混乱が予想される。

 では、なぜエルサルバドル政府はこうしたリスクがあるにもかかわらず、ビットコインを法定通貨にしたのだろうか。ブケレ大統領は、海外在住の移民が同国に国内送金する際に利便性が高まると説明しているが、それだけが理由ではないだろう。

 エルサルバドルは貧困層も多く、国民の7割が銀行口座にアクセスできないと言われる。ビットコインのインフラがあればこうした人たちにも恩恵が及ぶ可能性があるが、一方で、貧しい中南米と米国間には移民による送金が多いので、(アングラなサービスも含めて)各種の送金サービスがあり、手数料の問題はあるもののビットコインを使わないと送金ができないというほどの状況ではない。

 同国がビットコインを法定通貨として採用する本当の理由は、ビットコインを使った外貨の大量獲得と考えられる。それはブケレ大統領が、エルサルバドル国内でビットコインのマイニングを実施する方針を示していることからもある程度、推察することができる

【次ページ】ビットコイン採用は「外貨獲得が狙い」と言えるワケ

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