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ビットコインをはじめとする暗号通貨の台頭、フェイスブックの通貨「リブラ(Libra)」構想が出てきたことなどで「通貨を発行する主体は国である」という常識が変化を見せている。2019年10月に開催されたブロックチェーンカンファレンス「b.tokyo 2019」で行われたセッション「誰が通貨を発行するのか? ──国家 vs. 巨大IT企業 vs. 暗号通貨」では、慶應義塾大学 経済学部教授 坂井豊貴氏、マネーフォワード執行役員 神田潤一氏、ヤフー CSO(チーフストラテジーオフィサー)安宅和人氏、ジャーナリスト・キャスター 堀潤氏が「誰が通貨を発行すべきか?」について議論した。
リブラを通貨と捉えてはいけない?
『暗号通貨vs. 国家』(SB新書)の著者で、SNSでもブロックチェーンや暗号通貨に関連する情報を積極的に発信している経済学者の坂井氏は、ビットコインを中心とするさまざまな暗号通貨について深い関心を持っているという。
「2009年にビットコインが出てきて、その後、皆さんがご存じのようにさまざまなコインやトークンが生まれてきました。現在は、さらに多様なものが存在しています。当然、すべてが生き残るわけではないと考えています。一体、どういう暗号通貨が残っていくのかが興味があります」(坂井氏)
一方、リブラに関しては、「リブラのホワイトペーパー内では、ガバナンスについて何も明かされていません。これは意図的にそうしていると考えています」と指摘する。
内閣府や経団連などの会議で各種の委員に就任してきているヤフーの安宅氏は「“リブラは通貨である”という発想自体が、根本的には間違っているというのが私の見解です。通常の通貨とは大分異質であるにも関わらず、『同じように語る』ことこそが、危険であるとも感じています」と説明する。
その上で「デジタル化が進んだとしても、少なくとも10~20年の単位では、実際の多くの取引では各国通貨が使われることは変わらないと考えています。通貨は利用手段であり、信頼性が第一です。圧倒的に流通している普通の通貨を、リブラなどが置き換えていくとは思えません」とも指摘した。
マネーフォワード執行役員である神田氏は、日本銀行、金融庁で日本の決済制度とそのインフラの高度化、フィンテックに関連する調査・政策企画に従事。その後、民間企業のマネーフォワードに入社した経歴を持つ。金融庁に出向していた際は、暗号通貨の法改正に係わっていたこともある。
神田氏は「日銀のミッションは、金融システム安定、通貨価値の保護育成というところにあります。日本銀行券の価値を安定させたり、維持させたりしないと価値がくずれてしまいます。それらがなくなってしまうと、『ドルの方が良いよね』と皆さんに使われなくなってしまいます。銀行券の使い勝手は信用によって成り立っています」と説明。
通貨としては、「信用」があれば、使われる可能性があると指摘した。
それらの話を受けて、坂井氏が語ったのは、暗号通貨は「ニーズ」があるため、なくならないという説だ。
「貝や反物、たばこが通貨になっていたこともあります。たばこ自体をお札の様に使ってきた歴史もあります。その後、分業体制での経済となり、お金が必要となりました。今の経済は、物々交換では回っていません。通貨にはニーズがあり、ニーズがあるものはなくなりません」と語る。
続けて、坂井氏は江戸時代の「藩札」を例に挙げた。金貨や銀貨はその製造自体にかなりコストがかかってしまうが、代替手段として藩札を使うことで経済が成り立っていた。
それを踏まえて同氏は、「現在の日本の納税を考えると、日本政府は円でしか受け取ってくれません。国家が今の形式を取っている以上、手段としての通貨は残り続けます。ビットコインは個人的に好きですが、各国の通貨を脅かすほどにはならないと考えています」と説明する。
各国がフェイスブックに嫉妬しているという意見も
セッションの中盤では、リブラに関する各国政府の反応に話題が及んだ。安宅氏は「リブラを単なる通貨と思ってはいけません。巨大な価値創造システムだと捉えたほうがいいです。フェイスブックがやろうとしていることは、あまりにも巨大であり、各国の反応はそれに対する難癖ではないかと感じます」と強調する。
また、そうした“難癖”は今まで国が負えなかったものをフェイスブックが持つことによる“嫉妬”ではないかと指摘した。
その見解について、堀氏は「何に対する嫉妬であるのか。また、この状況をどうしたら良いか」と尋ねた。安宅氏は「通貨当局はお金の流れを追えるようにしたいというのが一番です。金(きん)や株券などと変わらないため、リブラについては放置することが正解だと思います」と回答した。
一方、坂井氏は「フェイスブックがリブラでしか決済しないとなったら、巨大な力を持つことになります。そこは規制すべきだと思います」と答えた。
神田氏は「さすがに放置とまではいかないでしょう。坂井さんが話されたとおり、価値を認める人がいれば使えるようになり、国の通貨価値が低い地域では影響が出てくると思います」と指摘する。
また、坂井氏は国際送金については「暗号資産の方が利便性は高い」と話す。堀氏も自身が国際送金を銀行で利用した経験から、その分野での暗号通貨の利用による利便性の向上に期待を示した。
モバイルペイメントが成功しない理由
安宅氏は、日本で最も使われている2つのモバイルペイメントの立ち上げに関わってきたと明かし、「20年前に徹底的に調べており、ペイメントの新規参入は失敗ばかりしている印象があります」と語った。
当時は、失敗事例から成功要因を探ることにも取り組んでおり、その結果として「圧倒的に使えること」「十分に使う人がいること」「既存のペイメントに勝る価値があること」が重要だと説明した。
「失敗事例でも、参加企業は錚々(そうそう)たるものでした。なぜ彼らは失敗したのか。少額決済に限定していたり、もっとサービスのユーザー数は多いのに使える場面がなかったりしたなどのケースがあります」(安宅氏)
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